米がなくなったので、いつも行く近所のスーパー・マーケットへ妻と出かけた。

｢じゃあ、あなたは、お米お願いね。１０キロのやつ。それから豆乳と卵。あ、卵はまだあるから、安かったらでいいよ｣
妻が、そう言って左へカートを滑らせ野菜コーナーへ向かった。
僕は、レジ群を横目にパック飲料コーナーへ。
まず目の前の米１０キロをかごへ入れる。

重たい。
だけど、体を鍛えるにはちょうどいい重さだ。
大学の時は、山岳部だった。
妻もやはり別の山岳部で、僕らはそこで知り合った。
今年で、ちょうど結婚１０年になる。

このくらいの重さ、へっちゃらで、妻と二人で険しい山々をいくつも制覇したっていうのに、今では、１０キロが腕に染みる。
体力には、人一倍自信あったのに、１０年の歳月が恨めしい。

｢そうだ、豆乳は成分調整のと無調整のどっちがいいんだろう？｣
僕は、豆乳のパックを手に悩んだ。
で、ケータイで妻へ確認の電話。

・・・・・・出ない。
店内の活気に満ちた軽快な音楽と、買い物への集中力のせいで、ケータイが鳴ってることに気づかないんだ。
まあいい。
妻を見つけて、直接聞いてから買おう。

次に、卵。
卵は、安かったら買う。
Ｍサイズ１パック１６８円。
・・・・・・安いんだろうか。
微妙だ。
また、妻へ電話。

・・・・・・出ない。
どうしようもないなあ！

僕は、野菜コーナーへ妻を捜しに行った。
惣菜コーナーを通り越し、試食販売を通り過ぎ、お肉コーナーへ。
その間も、パンや、菓子、お酒、生活雑貨、調味料の縦軸に並んだ棚の間を妻がいないか確認しながら、野菜コーナーへ進む。

そんなに広いスーパーじゃないから、いつもならこの辺で妻を見つけられるはずなのに、今日はどうも見当たらない。
とうとう突き当たりの野菜コーナーまで来てしまった。
入り口近くのベーカリーも覗いてみる。
・・・・・・いない。

くだもののトコにもいない。
もしかしたら、ある程度買って、レジ方向経由で、妻も僕を捜しているのかもしれない。
だとしたらすれ違いになっている可能性もある。

僕は、レジ経由でまたも飲料コーナーへ引き返すことにした。
そうか、雑誌コーナーで立ち読みか？！

少し戻って、雑誌コーナーを見るが、やはりいない。
調味料から、お酒、パンと逆順に縦軸の棚を確認しつつ、そこから見える横軸に並んだお肉コーナーも視界に入れながら、飲料コーナーへ戻った。

・・・・・・いない。
僕は、急に心細くなってくる。
サービスカウンターの前まで来て、立ち止まる。
迷子の放送をしてもらおうか・・・・・・。
いやいや、こんな小さなスーパーでいい歳をした大人が、妻を放送で呼び出すわけにもいかない。

どうしたらいいんだ。
妻は、いったいどこへ消えてしまったんだ？！

ドサドサッ！

不安が絶頂に達したその時、何かが激しく崩れ落ちる音がした。
僕はイヤな予感がして、その音のした方へ駆けだした。

冷凍食品コーナーで、冷凍食品の山が崩れて、下敷きになっている人がいるじゃないか！
もしかしたら、妻かもしれない。

僕は、冷凍食品の冷たい山をかき分ける。
手がかじかんでくる。
｢しっかりして！　しっかり！｣

冷凍食品を全部かき分けると、その下から、保冷用のシャーベット状の氷が出てきた。
この下に、妻がいる！

シャーベット状になった雪を僕は必死で掘り下げる。
吹雪は止む気配がないどころか、さっきよりも強さを増している。
防寒具を着こんでいるものの、体中の先端部分が凍傷なってきているせいか、感覚がほとんどない。

妻の手が見えた。
僕はその手を握って、雪の中から引きずり出した。
だけど、妻の呼吸はすでに停止していた。

僕らは二人でたくさんの山々を登った。
この山は、妻と二人で結婚記念に登頂した山だった。
今回は、結婚１０年目の記念に再登頂と思い選んだのだ。
だけど、今の僕らには、雪山はやはり無理だったのかもしれない。

妻を抱きかかえた時、雪崩の第２波が僕らを襲った。


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