タイムスリップタクシー2010-06-05


「とにかく未来へ・・・・・・未来へお願い」
全身をプラダで着飾ったひとりの若い女が、そう吐き捨てるように言って、後部座席へ乗り込んだ。

「未来って言ってもお客さん、いついつとはっきり言ってもらわないと・・・・・・」
運転手は、制帽を目深に被りなおすと、バックミラー越しにその女に言った。

「・・・・・・じゃあ、1万年後、・・・・・・いや、100万年後でいいわ」
「100万年後?!」
運転手は、タイムメーターをセットする手を止めた。

「出来ないの?」
「いや、できることはできるんですけど、大抵の場合、自分の辿ってきた過去をやり直すために、このタクシーを利用されるんですけど・・・・・・」
「過去? ふん! 過去なんてどうでもいいの。私の過去になんて、なんの意味もないわ。人間がひとりもいない世界へ行きたいのよ!」
たしかに、100万年後なら、もしかしたら人類は絶滅しているかもしれないと、運転手は思った。
「しかし、そんな誰もいない未来だなんて。・・・・・・一度行ったら、もう2度と戻ることはできないんですよ」

着飾った女は、窓ガラスに映る夜の世界と自分の姿をダブらせ、ジッと見つめたまま、無言でいた。
その女の冷たい眼差しは、覚悟を決めているという意思表示だった。

「わかりました・・・・・・。人類絶滅後の未来ですね」
運転手は、タイムメーターを限界までセットした。

「・・・・・・運転手さん、無理言ってゴメンね。私、今まで沢山の人たちを見てきたの。いろんな男が、それこそ数え切れないくらいいろんな男が、私のことを愛し、そして去って行ったの。だけど、私は誰ひとり・・・・・・愛することはできなかった。・・・・・・私は、ただいろんなことを知りすぎてしまっただけだったのよ」
悲しげな声で、女はそう言った。

「そうだったんですか。お客さんもいろいろと辛いことがあったんですね。・・・・・・そう言えば、昔、あなたと同じようなことを言ってたお客さんを乗せたことがありましてね。その人は男の人だったんですけど、ひとりの女を愛し続けたって男でして、その女性以外愛することができなかったって言うんです。で、このまま生き続けても、空虚な人生だけがただ過ぎていくから、どうせなら、その女性に出会う前の過去・・・・・・ずっと過去へ行きたいと仰いまして。・・・・・・つまり、人間が誕生するずっと前の過去へって言うんですよ。・・・・・・あなたとは、逆ですけどね。・・・・・・いや、まあ似てるなあと」
運転手が話している途中で、女は眠ってしまったらしい。
後ろから、寝息が聞こえてきた。

時間は、めまぐるしく過ぎて行った。
いくつもの時代が、猛スピードで窓の横を流れた。
そして、一瞬暗闇が襲い、しばらくすると、雲が晴れ、まばゆいばかりの光が世界を照らし出した。

辺りは、すっかり緑に覆われていて、広大な平野がどこまでも続いている時代に出た。

「お客さん・・・・・・お客さん、起きてください。着きましたよ」
運転手は、疲れきってスヤスヤと眠ってる女の肩を優しく揺すった。
女は、ハッとして目を覚まし、あくびをすると、ドアを開け、ゆっくりと車の外へ出た。

「ここが、未来・・・・・・誰もいない未来なのね! 素晴らしいわ!」
女は、すがすがしい表情を浮かべ、運転手を見て微笑んだ。
運転手は、頷いてドアを閉めた。

「ご乗車、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう!」
女はそう言って、束ねていた髪をほどき、ハイヒールを脱いで裸足になると、どこまでも続く平野を駆けて行った。

「このタイムスリップタクシーは、未来へは行けないんだ。君は、この長い人生で、いろんな『知恵』を身に付け、そして再び、はじまりの地、エデンへと戻ってきたんだよ。・・・・・・イヴ」
運転手は、着飾った女の美しい後ろ姿へつぶやいた。
そして、エンジンをかけ、運転許可証の点灯スイッチをオンにした。

運転手名:サタン
許可番号:666


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今回のこのお話「タイムスリップタクシー」は、舞さん、ia.さん、七花さん、矢菱さんたろすけさんおりんさん鈴藤さん銀河径一郎さん、>、keita2さんが、競作してる『タイムスリップタクシー』に面白そうなんで、ボクも乗合させていただこうと、勝手に書いてしまいましたあ!


どうでした?
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コメント

_ 矢菱虎犇 ― 2010-06-05 21時55分47秒

元を正せばタダのサル・・・
じゃなくって、僕の元をどんどん遡って父さん、祖父さん、曾祖父さん・・・ずずっとはしょってアダム!
お相手の女性も遡ったらイヴ!
結局、男と女の根源はアダムとイヴに過ぎないのでしょう。
僕はアダム、君はイヴ。
さあ、一緒にリンゴを食べよう!
・・・こんなことを言って騙そうとしても、妙齢の美女は騙されてくれないだろうなぁ・・・

それはさておき!ヴァッキーノさん、早速のタイムスリップタクシーですね!
イヤイヤ、なかなか!
皆さん、それぞれの個性がみごとに出てますね~!

突然のプチイベントみたいな感じになって楽しかったです!!

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-05 22時11分04秒

矢菱さん
素早い!
企画の紹介ありがとうございます(と、勝手に参加しました)

どうでしょうか?
こういう設定でよかったんでしょうかね?
未来に行けないってことにしたんですけど。
結局、急いで、しかも勢いで書いたもんで、こういうものになってしまったんですけど、またなんかあったら教えてください。
いやあ、楽しいもんですよね!
こういうのって。

_ tatsu ― 2010-06-06 12時03分45秒

「タイムスリップタクシー」の競作楽しませて頂きました。
エデンの地に降りたイヴは着飾っていた服を脱ぎ捨て生まれたままの姿で
落ちていたイチジクの葉を拾い緑の平野を駆け出して欲しかったように思います。

今度はタイムスリップする乗り合いバス、とか電車とかは無理ですか
色んな人が乗り合わせるので色んな物語が出来そうな気もしますが・・・。

_ 矢菱虎犇 ― 2010-06-06 14時16分58秒

ありゃりゃ!
アダムがサタンになってるぅ~!
運転手がアダム本人で根源からやり直すって話かと思ったら、
運転手はサタンで男と女のさだめみたいなのを操っていたと??
これはまた思い切って改変されましたね~!
自称ヴァッキノストーカーの虎犇ですが、
こいつは油断も隙もねぇ!(笑)

_ たろすけ(すけピン) ― 2010-06-06 15時33分34秒

こんにちは。読ませていただきました!
神話の世界まで遡りましたか! この手の作風は、ヴァッキーノさんならではですね^^
読めば読むほど、味があるなぁ。。。

_ りんさん ― 2010-06-06 15時57分56秒

いろんな人が、同じ題でお話を書くんですね。おもしろそう。
個性が出て楽しいですね。

この女の人が、まさかイブだったなんて、オドロキ!
一度禁断の味を知ってしまったイブは、果たしてエデンで満足できるのかしら?

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-06 17時59分07秒

tatsuさん
>着飾っていた服を脱ぎ捨て生まれたままの姿
そうなんですよ!
最初に記事をアップした時点では、まさにそうだったんです!
しかも、運転手はサタンじゃなくて、アダム。
だけど、もうひとひねりって思って、それがかえって腰を痛めるハメになっちまいましたあ(笑)

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-06 18時03分29秒

矢菱さん
2度も注意深く読んでいただいて感謝感激です!

最初のエンディングだと、
なんかしっくりしすぎてて、中途半端さがない感じだったので
うずうずしてたんですけど、朝起きたら、急にひらめいたです。
そっか、アダムはすでにエデンの園にいるわけだから
運転手を知恵の実を食わせたサタンってことにしようって!
どうだったでしょう?

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-06 18時06分06秒

たろすけさん
どうもどうも。
なんだか、勝手に便乗してしまって、どういうもんかなあって
思いながら書いたんですけど、なかなか力が入りますね。
お題があるって、いいですよね!(笑)
たろすけさんも、タクシー運転手の話、チャレンジっすか?

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-06 18時09分16秒

おりんさん
>いろんな人が、同じ題でお話を書く
こういう偶然のすれ違いみたいなのが、ボクは大好きなんです。
みんながそれぞれのタクシーを運転しているわけじゃないですか。
それが、どこかの時代、誰かの人生とすれ違う。
直接的には接点はないけど、画面に映り込む・・・・・・みたいな。
ボクは、今回矢菱さんのブログを拝見して、勝手に参加しちゃったクチなんですけど、こうなったらおりんさんも、あいのりしませんか?

_ (未記入) ― 2010-06-06 23時59分35秒

こちらはまたショートショートらしい作品ですね。
『創世記』への変化球。ラストもキレイに決まってますね。
許可番号が666なのもニヤリとしてしまいます。
「人類滅亡の未来へ」なんて、この女性はどんな辛いことがあったんでしょうね(笑)

_ ia. ― 2010-06-07 00時00分42秒

ごめんなさい。上のコメントに名前を入れ忘れました。
ia.でした☆

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-07 18時23分58秒

ia.さん
この企画は楽しかったです。
縛りがあるようで、自由度が高い。
こういうのは、すばらしいですねえ。

>この女性はどんな辛いことがあった
そうですよね。
なんせ、最初の人類なわけですからね。
しかも、死なないで現代までひっそりと生き続けていたとしたら、
それはそれで、人間の中で一番不幸なのかもしれません。
だとしたら、もう人間は見たくないっておもったのかもしれないですね。
なんて、難しいこと書いてますけど、本当はテキトーなんです(笑)

_ ― 2010-06-08 00時17分07秒

ありがとうございました。
皆さんで参加してくださって嬉しいです。

先に行ったのはもちろんアダムですよね。
サタンに翻弄されながらアダムとイブはずっとそこから出られない。
天使の顔をして罪な運転手ですね。

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-08 06時22分57秒

舞さん
いやあ、今回は勝手に参加させていただいて、
本当にありがとうございました!
いろんな種類のお風呂があるスーパー銭湯にでも行ったような
気分を味わうことができました。
また、いつか機会があったらやりたいですね。

>天使の顔をして罪な運転手
テレビだと、悪者は悪そうな顔してますけど
実際は、みんないい人ですよね。
時には天使、時には悪魔で、本当はどっちなのか
キャラの判断がしずらかったりします。
ですから、天使みたいな悪魔ってのはそこらへんに
ゴロゴロしてたりして(笑)
舞さんも、気をつけてくださいよ!

_ もぐら ― 2010-06-10 19時17分03秒

はじめまして。
りんさんのところから来ました。

とっても楽しい企画ですね。
そして みなさんの作品 どれも個性的で楽しいです。

それにしても運転手さんはサタンなんですか?
天使かと・・・。

これからも楽しみにしています。
ありがとうございました。

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-10 20時20分22秒

もぐらさん
おりんさんのところから
コメントありがとうございます!
矢菱さんに誘ってもらった企画だったんです。
で、おりんさんもゼッタイ参加してくれるって思って勝手に無理矢理お誘いしてしまいまいた。
お題があると、楽しいですよね。
みんなでワイワイやれて楽しかったです。
またこういうのがあったら
もぐらさんもいかがですか?

_ もぐら ― 2010-06-11 11時52分08秒

本当に楽しいのが伝わってきますよ。

うふふ、誘っていただいてありがとうございます。
舞さんにも誘っていただいたんですが・・・うえ~ん。
こればっかりは どうも なんとも かんとも・・・。

みなさん 本当にすごいです。
尊敬ー!
これからも みなさまのファンとして 楽しみにしております。
よろしくお願いします。

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-11 18時50分23秒

もぐらさん
みなさん、スゴイですよね。
基本的には、ショートショートなんですけど
どの作品も奥が深かったり、懐が深かったりで
うまいなあって思うんです。
ボクなんて、読書とか全然しないんで、文体なんかメチャクチャじゃないかと、心配になりながらいつも書いてますよ。
また、ぜひ来てくださいね!

_ 鈴藤 由愛 ― 2010-06-12 19時15分36秒

どうも、初めまして。鈴藤と申します。
タこのたび、イムスリップタクシーの競作に参加いたしましたので、ご挨拶がてら。
プラダで着飾れるぐらい恵まれてるのに、心は満たされなかったんですねえ。
過去なんて意味は無い、の言葉にはうなずける部分もありますが。
アダムと幸せになれるといいですね。

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-13 07時05分16秒

鈴藤 由愛さん
はじめまして~!
おお、すごい!
タイムスリップタクシーの
広がりはスゴイですね!

>プラダで着飾れるぐらい恵まれてるのに、心は満たされなかった
そうでうよね。
実は、
「プラダを着た悪魔」って映画があったじゃないですか。
そういうシャレも含んでるんですよ(笑)
てなわけで、
今後とも、よろしくお願いいたしやす!
さっそく、鈴藤さんのトコにもお邪魔しますよ~。

_ 銀河径一郎 ― 2010-06-14 18時09分35秒

これは面白い発想ですね。
たしかに未来もずっと進んでゆくと人がいない世界かもしれない。
だから原始時代に戻っても未来だと騙せる。

サタンも気の長い意地悪を始めましたね(笑)

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-14 18時36分59秒

銀河径一郎さん
読んでいただき、ありがとうございます!
当初はサタンは登場しなかったんですけど、
なんか、ひねりを加えようと、ハリキッてしまいました。
こういう企画って、燃えますねえ!

_ keita2 ― 2010-06-27 08時21分23秒

はじめまして。
運転手の思いで行先を決めるのが
斬新だと思いました。
そしてオチがそうくるかとビックリしました。
サタンもいろんなことしますね。

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-27 08時47分48秒

keita2さん
おはようございます!
いらっしゃいませ。
ボクは、この企画に無理矢理さんかさせてもらったわけですが
みなさんのタイムスリップタクシーを読んでいると
ツクツクホウシ、いえ、つくづく自分の性格のねじ曲がりさが
イヤになりました(笑)
もっとほのぼのとした温かみのある人間になりたいもんです。

それにしても、ひとつのテーマで、いろんなお話ができるもんですね!
keita2さん、おもちゃ箱をひっくり返したまんま、散らかしっぱなしで、どこかへ遊びに行ってしまったようなブログですが、またよろしくお願いミルマスカラス。

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