溺れかけた男2010-06-20


「・・・・・・ここは、船?」

気がつくと、僕はベッドの上にいた。
体中の力が抜け、両腕がとても痛かった。

「気分はどうだい?」
日に焼けた漁師が、僕を覗きこんだ。
「僕は、助かったんですね?」

漁師は、微笑み、僕にどうしてこうなったのか聞いてきた。
僕は、漁師にことのいきさつを話して聞かせた。

「・・・・・・僕は、彼女と二人で小さなゴムボートに乗って、海岸を出たんです。波は、はじめのうちとても穏やかでした。

しかし、しばらくすると、遠くの方にあった真っ黒な雲がすぐそばまでやって来て、ものすごい豪雨になりました。

僕らは、岸へ戻ろうと必死でもがいたんですが、波がとても高くなり、ずっと沖の方へ流されて、とうとうゴムボートは転覆してしまいました。

『たすけて!』
彼女が僕の腕にしがみついて、何度も叫んだんです。
僕も、もちろん恐怖でどうにもならなかったけど、彼女をこれ以上パニックにさせないため、ありったけの力を振り絞って、波から逃れようとしました。

『海の底に沈むのはイヤ! 真っ暗な海の底で死ぬのはイヤ!』
『大丈夫だよ! 僕らは助かる!』

『私、死にたくないの! 死にたくないのよ! 海で溺れて死ぬなんてイヤよ! お願い!』
そう叫んですぐ、大きな波が僕らを引き裂いたんです・・・・・・。それからのことは覚えていません。気が付いたら、僕はこうしてベッドの上でしたから。

彼女は! 彼女は無事なんでしょうか!?」

漁師は首を振った。
「助かったのは、あんただけだよ。・・・・・・しかしあんた、これが奇跡だと思っとるのか?」
漁師が僕に尋ねた。
「もちろんです。・・・・・・ああ、きっと、彼女の愛が僕に奇跡をもたらせてくれたんです」
僕はやっとの思いで、漁師に言った。

「そうだな。まったくその通りだ」
「・・・・・・」

「しかし、あんた、彼女を絞め殺しておいて、よくそんなデタラメが言えたもんだねぇ」
「な、なにを言うんです! 僕の話がデタラメだって証拠がどこに・・・・・・」

「あんた、彼女のこと殺して、海の底に沈めたつもりだろうけど、人間の死体ってのはな、いったん海の底に沈んでしまうんだが、体の中にガスが溜まって、またすぐ浮かんでくるもんなんだよ」
僕は、漁師の言葉にギクリとなった。

「気を失ってたから知らんだろうが、あんたは、そのパンパンに膨れあがった彼女の死体を浮き袋代わりにして、プカプカ浮かんでたから助かったんだぜ。・・・・・・まあ、ある意味、奇跡だわな」
「・・・・・・そ、そんな」


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コメント

_ 矢菱虎犇 ― 2010-06-20 22時39分27秒

おかしいなぁ・・・
コメントが入力できない・・・3度目の挑戦、エイ!

この話の真相って、「僕」がゴムボートの上で彼女を絞殺、海に沈めて帰ろうとして、大波に遭遇してボートが転覆、彼女の浮いた死体を浮輪がわりに助かるという展開ですよね。死体がガスで浮いてくるまでには時間が一日以上かかるはずだから。そんなこと真面目に考えてると、彼女が死体になっても「僕」を助けようとしている執念みたいなのを感じて怖くなったっす。

僕は今朝、なんとなく『殺し屋ハリー華麗なる挑戦』という昔々の未見映画のオープニング部分をユーチューブで見たんです。冒頭、足をコンクリで固められた死体がウジャウジャ出てくる場面があって、そこにヘンリー・マンシーニの楽しげな音楽が乗っかる実にブラックな場面なんです。
そしたら、ヴァッキーノさんのこのお話でしょう?
ヒョエエエ!怖!

_ 矢菱虎犇 ― 2010-06-20 22時42分45秒

やっと入力できました。
ユーチューブへのURLを貼り付けると、コメントができないようです。

_ tatsu ― 2010-06-21 01時04分53秒

ラストに待ち受ける大どんでん返し

太陽が一杯のラストシーンを思い出します。

_ もぐら ― 2010-06-21 11時06分08秒

わあ、なんだか現実味があるなぁ~と感じるのは私だけ?

彼はしがみつかれて無意識に彼女を絞め殺したんだ
と思っちゃった。
でも矢菱さんの「女の執念」とか聞くと うーん深いな。

人って死ぬのも殺すのもけっこう簡単だと思います。
あはは。

_ 矢菱さんへ ― 2010-06-21 20時59分35秒

休みだったので、結構長めに書いたんです。
殺人のいきさつについて語るシーンとか
溺れるトコ、無人島に辿り着くトコなんかを。
だけど、長すぎたので、上と下を全部削って、
出来事を男の独白にしてみました。

>ユーチューブへのURLを貼り付けると、コメントができない
なんでですかね?
そういう設定になってるんでしょうか。
お手数をおかけして、すいません。
なんもやってないんですけどねえ???

_ tatsuさんへ ― 2010-06-21 21時02分41秒

太陽がいっぱいみたいな、完成されたサスペンスには
とてもおよびませんです。
ボクの場合、「太陽がいっぱい」っていうより
「焼酎もういっぱい!」
って感じですゼ(笑)
主演:デロンデロン

_ もぐらさんへ ― 2010-06-21 21時06分03秒

>彼はしがみつかれて無意識に彼女を絞め殺した
なるほど!
それイイですね!
そうすりゃよかったあ!
愛の力ですもんねえ。

>人って死ぬのも殺すのもけっこう簡単
そうですよね、重く受け止めてるのは残された周囲の人間だけですからね。

なんつって、ダークですなあ(笑)

_ りんさん ― 2010-06-21 21時09分21秒

怖いですね~。
何か想像しちゃいました。
海の上は目撃者もいないから、完全犯罪になるはずだったのにね。
悪いことは出来ませんね。

_ おりんさんへ ― 2010-06-21 21時20分55秒

去年の夏に海へ行ったんです。
浜辺から海の中へ入っていくと
波が押し寄せてきました。
大したことななあって思って、バカにしてたら急に大きな波!
死ぬかと思いましたよ。

ボクは、溺死だけは嫌です。
塩水を大量に飲んで死ぬなんて!
いやだいやだあ!

_ つとむュー ― 2010-06-21 22時02分49秒

彼女が溺死はイヤだって言うから、首を絞めてあげたんですよね。
だから、死体となって主人公を助けてくれた・・・(えっ、違う?)

ところで、ラ研の夏企画が始動しましたよ~
今週、お題を募集して、来週、お題の投票をして、7/4にお題の発表です。そして投稿締切りは8/14。お題の募集だけでも参加してみてはいかがですか?

あと、電撃リトルリーグというのも面白そうです。
2000字以下で、締切りは8/31、お題は「夏到来、○○はじめました」です。
優秀作品に選ばれると、雑誌に掲載されるそうです。

_ つとさんへ ― 2010-06-21 22時22分45秒

ショートショートファイトクラブへのコメントが
なかなかうまくできません(涙)
でも、投票はしましたよ。
つとさんは、けっこうコメントしてますよねえ。
すごいなあ。

>ラ研の夏企画
>電撃リトルリーグ
つ、つとさん!
精力的すぎるー!

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