穴 ―The Hole―2010-07-04




「何回、同じ曲聴かせる気だよ!」
「しょうがねえだろ。CD、これ1枚しか持ってきてねえンだからよ」
「・・・・・・もう、その会話3回目じゃない? いい加減にしてよ!」
「おい、ビールもうねえの?」
「え? クーラーボックスの中のみんな飲んじまったのか?!」
「バカヤロー! この先、店なんかずっとないんだぜ! どうすんだよ!」
「とにかく、この曲、消せ! ラジオでもかけてくれ!」

「・・・・・・ねえ」
「なんだよ」
「この先、スゴイ渋滞だわ」
「うそだろ? 砂漠のど真ん中の一本道でか?」
「だってホラ、ずっと先・・・・・・」
「本当だぜ! あの採掘場の向こうまで車が続いてるぜ!」

「どうなってんだ?」
「知らないわよ」
「面白そうじゃん。その先で、なんかドデカイことやってんじゃねえの? 行ってみようじゃん」
「ダメだ。引き返そう。戻って国道を迂回した方が早い」
「大丈夫だよ。ここまで来たんだ。ちょっとぐらい寄り道したって、文句言われねえよ」

「葬式なんて、辛気くせーのは、そもそも行きたくなかったしよ」
「お前、それでも友達か?」
「そりゃ、悲しいよ。悲しいけどさ。だけど、ダチが棺桶に入れられて、穴に埋められるとこなんか見たくねえもんな」

「ねえ、どうするの? 運転手なんだから、アンタ決めなさいよ」
「おれ? おれは・・・・・・別にハンドル握ってるだけだから」
「ウジウジしないで、はっきり言いなさいよ! ここから国道まで戻ったら3時間はかかるわよ」
「・・・・・・よし、決まりだな」

「退屈な砂漠ツアーも、まさかの渋滞で、なかなか面白くなってきたじゃねえか? この先、いったい我々をなにが待ち受けているのだろうか! ジャーン!」
「バカか! さっきからちっとも動かねえじゃねえか」
「おれ、しょんべん!」
「ほらほら、一人でビール全部飲んじまうからだよ!」
「うるせー」

「見て、看板があるわ・・・・・・『 ↑ 穴 』・・・・・・? なんなの?」
「矢印と穴だろ? ぎゃははは! 決まってるじゃんか!」
「なによ・・・・・・バカ! スケベ!」
「その指やめろ!」
「・・・・・・まただわ・・・・・・」
「『 ↑ 穴 』 ・・・・・・お? まただ! 『 ↑ 穴 』」
「どうやら、この先に『穴』があるみたいだぜ」
「工事中ってことか?」
「まさか」
「・・・・・・おれ、しょんべん!」
「わかったから、さっさと行って来い!」

「おい、やっぱこれだけの渋滞だ。あそこに露店が出てるぜ」
「本当だ! ビール、補給しちゃおう!」
「そうだな」
「お前、買ってこいよ! 全部飲んだんだから~」
「わかってるよ、今、降りて行ってくるよ」

「・・・・・・買って来たぜ!」
「よしよし・・・・・・って、テメェ! なんだよこれ!」
「これしか売ってねえんだよ!」
「ドーナツしか売ってない露天なんて、おかしいじゃない!」
「そうなんだよ。それで、おれ、店のオッサンに聞いてみたんだよ。ビールはねえのかって」
「そしたら?」
「この土地の名物はドーナツだから、ドーナツしか売ってませんとよ」
「どーなっつってんの? なーんつって!」
「くだらねえ!」

「ところでよ、そのオッサンに、この渋滞の先になにがあるのかも聞いて来たぜ!」
「よし! でかした!」
「・・・・・・それがな・・・・・・」

コンコン・・・・・・コンコン。

「あの~、すみません」
「・・・・・・誰だ? このオッサン」
「ああ、さっきのドーナツ屋だ。開けてやれ」
「はい、なにか?」

「おつり・・・・・・落としましたよ」
「あら? ポケットに穴が開いてら! いつの間に!」
「おじさん! ありがとう!」

「・・・・・・ねえ、見た? さっきのおじさんの手」
「手? 手がどうした?」
「窓ガラス叩いた手の甲に大きな十字型のアザがあったわ」
「だから、なんだよ」
「なにって・・・・・・気味悪いじゃない」
「そう?」

「ドーナツ食おうぜ!」
「・・・・・おい! ところで、この先になにがあるんだっけ?」
「ちょっと待て! その前にしょんべん!」
「またかよ!」
「あ! ・・・・・・このドーナツおいしい!」


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コメント

_ 矢菱虎犇 ― 2010-07-04 10時30分23秒

夜中に秘宝館に「穴」をアップして寝てたらですね~
おさ子さんの穴みたいな不可知なる穴という存在に関わる群像のひとりを設定して書いて、みんなの作品が集まってひとつの穴ができてくる・・・ってのがよかったかもなぁ
僕の「穴」みたいに定義しちゃうのはマズかったなぁなんて思いながら目を覚ましてしまったんですよ。

そしたらヴァッキーノさんのこの文章!
まさに穴をめぐる群像劇。
群像だけで輪郭を描いて正体を見せない穴!
しかも会話というか音だけで輪郭を描いて、穴!
しかもドーナツの穴!

なるほどなぁ!!
・・・と思いつつ、僕の「穴」を読まれた方が、
「あ、何でもありね!」
って思ってもらえるといいかな。
なんて言い放って穴の中に消えます。
ピョ~ン!

_ tatsu ― 2010-07-04 11時01分44秒

ドーナツの輪っかが有るから穴がある
輪っかを食べちゃったら穴が残る・・はずですよね。

何で穴は残らないんだ
「どーなっつってんの? なーんつって!」

_ おさか ― 2010-07-04 13時21分52秒

さっき書いたコメントが消えてしもうたのでショックのあまり昼ごはんを食べていました。ちなみに昨日のカレーの残りでした。げふー。

えーと何書いてたんだっけ。

そうそう、タランティーノの「デスプルーフinグラインドハウス」の、女子のグダグダ会話を思い出したんだった。あの展開でいくと、十字型の男が突然フルチューンの装甲車に乗ってふははははと笑いながら追いかけてくるんですね。怖いっすね。

というような、なんだか緊張をはらんだグダグダ感ですねえ。

それにしても、姿の見えない穴よりドーナツの穴が気になってしまったのは私だけかと思ってたら皆(笑)。

_ 矢菱さんへ ― 2010-07-04 15時41分24秒

どんなのがいいのかなあと悩みました。
矢菱さん、今回は800字だっつーし、ボクもとりあえず800字って思ったんですけど、
結局こんなオチのない話になりまして。

いろんな穴をちりばめてみたんです。
ドーナツの穴。
友達の棺桶を埋める穴。
女の性器の穴。
ポケットの穴。
あと、この音楽もHOLE(穴)っていうんです。
これだけ穴が登場するのに肝心の穴が出てこない。
だから、落ちない。
オチない。
なーんっつって(笑)

_ tatsuさんへ ― 2010-07-04 15時47分16秒

ドーナツの穴を売る商売ってのは
儲かるかもしれませんねって、んなわけないか!(笑)
ドーナツの穴から見える世界は別世界。
みたいなお話も面白そうですね。
メモメモ。

_ おさかさんへ ― 2010-07-04 16時05分21秒

ボクはお昼、ラーメンと餃子を食いました。
それはさておき、
自分から企画をたてておいて、なんなんですが、いざ書こうと思ったら、思いつかないもんですねえ。
でも、矢菱さんは早速書き上げてるし
どうしたらいいだろうかと
穴穴穴って考えてたら
ロードムービーに思い当たったんです。
友達の葬式へ向かうため、オンボロの車に乗った若者たちが、近道の砂漠地帯を横切ろうとして「穴」に遭遇するわけです。
でもそれがなんなか最後まで明らかにならないまんまエンディング。
そこにあるのに辿り着けない。
ないものを追い求める。
実は、今回はカフカの「城」や「掟の門」をイメージしてみたんです。
ドーナツが食べたくなってもらえたら
うれしいです。
おさかさんのおかげで楽しい企画になりそうです(笑)

_ ia. ― 2010-07-05 02時40分06秒

これ、いいですね。
いい感じで核心からズレて、ワクワクします。
カフカのイメージなんですね。
カフカの作品は不確定なものにイラつく感覚があるのですが、こちらは何を予感させるものの、爽やかで楽しかったです。
ホラー小説の冒頭部分にも使えそうですね。

みなさん、十字の痣の使い方がうまいですね。
私もアイデアを出したり、ボツにしたり、書きかけたり、ゲームをしたりしてるんですが。
ああ、どうしよう……。

_ ia.さんへ ― 2010-07-05 18時44分17秒

ボクも企画をしておいて、うまいのが思いつかなかったんです。
それで、会話文が苦手なので、苦手克服のつもりで
会話だけの文章にしてみました。
そしてら、オチを考えないで書いたので、結果的にオチなしってことになってしまいました。

>ボツにしたり、書きかけたり、ゲームをしたり
ゲーム!
穴に関係あるゲームですか?
たとえば・・・・・・
底ぬけ脱線ゲーム!
生き残り頭脳ゲーム!
あ、どっちも違いそうですね(笑)

_ りんさん ― 2010-07-05 19時28分00秒

こんにちは。
私もさっそく書いてみました。

ヴァッキーノさんの穴、面白いですね。
こういう穴もアリですよね。まるで考えつきませんでした。
ドーナツかあ…なるほどね~(ひたすら感心)

_ おりんさんへ ― 2010-07-05 20時39分03秒

ついに
おりんさんの「穴」ですね!

>ドーナツ
そうなんです。
穴があったら入りたい気分ですよ。

・・・・・・最近思うんですけど
○○さんの「穴」!
って言い方で紹介するのって、どうもエッチな感じじゃないですか~?(笑)

_ もぐら ― 2010-07-06 16時18分12秒

まだ見えぬ 「本命の穴」の前に 気が付けばあっちにもこっちにも「穴」、「穴」「穴」だらけ!
おもしろいですねー。
なにかが始まりそうで・・・・ワクワクするような、でも肩透かし・・・。
と思ったら・・・。

う~ん、さすがヴァッキーノさんです。
ステキ~!

↑のコメントも笑ってしまいました。読んじゃってゴメンナサイ。

_ もぐらさんへ ― 2010-07-06 20時05分10秒

ボクの穴を見てくれてありがとうございます(笑)

穴についての説明は、おさかさんのブログでしてるので、
ボクは、そこへ行こうとしてる連中を書いてみました。
それだけだと、つまんないので、伏線としていろんな穴を登場させてみたんです。
はたして、この若者たちの辿り着く穴は、誰の作品の穴なんでしょう?
そんなことを考えると、面白いですねえ。

_ 銀河径一郎 ― 2010-07-08 12時28分03秒

会話のかけあいが延々と続きそうで
いかにもアメリカの青春映画風で面白いです!

ドーナツは輪ッかから作り始めたものより、穴から作り始めたものの方がなんとなくおいしそうですが、そういう完成品はみたことがない。

書けたら報告します!

_ 銀河径一郎さんへ ― 2010-07-08 18時46分58秒

会話文だけでお話を進めようとすると、どうしてもわざとらしい状況説明を会話に入れてしまうんです。
もっとスッキリ書けたらよかったんですけど、まだまだですね。

銀河径一郎さんの「穴」、楽しみに待ってマース!

_ レイバック ― 2010-07-10 02時33分42秒

タランティーノ的な軽薄な会話がすっげー俺好みです(笑)
いいなぁこういう空気のロードノベル俺も書きたいなぁ。

_ レイバックさんへ ― 2010-07-10 06時21分56秒

今回は、会話だけの文章にしてみました。
画像は5人の若者なんですけど、このお話自体は
いったい何人登場しているのか、書いたボクにもわからないんです。
>ロードノベル
なるほど~、そういうジャンルなんですね!

「穴」企画では、本当にいろんな穴を覗くことができて
楽しかったです。

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