目隠しを外された。
急に目の前が明るくなったせいで、男は眩しさに目を細めた。

「ハハハハハ！　メリー・クリスマス！」
サングラスをした大柄の老人が、しゃがれた声で笑った。
「この男が、そうなのか？」
「はい、グランド・ジャガー。・・・・・・この男が、殺し屋ですのよ」
男の隣で、目隠しを外した女が、ニヤリと笑った。

グランド・ジャガーと呼ばれた老人が、葉巻の煙を吐きかけると、男はその匂いにむせた。
「殺（ヤ）れるのか？　この男に」

たしかに、男は一流の殺し屋だった。
しかし、その稼業とは、とうに縁を切っていた。
「ふん！・・・・・・悪いが俺は、もう殺しはやらねえんだよ」
男は、目を合わせずに吐き捨てた。

愛する者ができたら、殺し屋は続けられない。
それは、この世界の掟だった。

「・・・・・・ちくしょう」
とんだクリスマス・イヴだ。
男は、思った。
まだ３歳の息子は、サンタクロースを信じていた。
男は、サンタからのクリスマス・プレゼントを内緒で買って、帰るほんのちょっとの隙に、男は、何者かに拉致された。
そして、目隠しをされ、手錠をはめられて、ここへ連れてこられたのだった。

「君に殺（や）ってもらいたいのは、わしの右腕として裏社会を牛耳っているサーベルだ。しかし、サーベルは、最近、タイガーという組織と手を組んで、わしを陥れようとしているらしい。このままでは、ファミリーが崩壊してしまいかねないのだ」
ジャガーはそう言って、椅子の横から、包み紙を取り出した。

「これかね？　サンタさんからのプレゼントは。・・・・・・もし、君がわしの依頼を断ったら、サンタさんが来ないと、息子さんが泣くことになるだろうな。まあ、受けて、失敗しても同じことだがね」
なんて奴だ。

「ちぇ。そうなったら、俺の息子に伝えてくれ、サンタクロースは、風邪をひいて寝込んでるってな」
「よろしい。では、例のものを男に渡してやれ！」
女は、男のポケットにナイフとクシャクシャになった布切れのようなものをねじ込んだ。

「サーベルをやったら、これを顔の上に置いておくのよ」
「期限は、今夜０時。クリスマス・イヴが終わるまでだ。それまでにサーベルを殺せ！　成功したら、次の日の朝には息子の枕元にサンタさんからのプレゼントがあるだろう」

「・・・・・・くそったれ」
そして、くすりを嗅がされ、気を失った。

気がつくと、男は公園のベンチにいた。
・・・・・・夢か？
いや、違う。
ポケットに、ナイフと布切れがある。
男は、布切れを広げてみた。
虎をかたどったマスク。
そうか、これをサーベルの死体に置いておけば、タイガーという組織の仕業になるってわけだ。
期限は、今夜。

しかし男は、殺しから足を洗ったのだ。
もう、誰一人殺さないと誓った。

男は、サーベルを殺すことをやめ、家に帰ることにした。
そして、何事もなかったかのようにドアを開けた。
「おかえりなさい。遅かったのね」
「ああ・・・・・・。息子はもう寝たかい？」
「すっかり寝てるわ。・・・・・・あら、あなたプレゼントは？」

「それが、サンタさんは今年、風邪をひいてしまったらしい」
「何言ってるの？　わかった。私にも内緒にするつもりね？」
そう言って、妻は笑った。

朝になった。
息子が、うれしそうに寝室へ駆けてきて騒いだ。
「パパ！　ママ！　サンタさんから、おもちゃが届いたよ！」

なに？！
そんなバカな！
その時、ケータイに着信音が響いた。

≪サンタさんへ。おみごと。さすがだわ。任務完了よ。メリー・クリスマス≫
画像も添付されてある。

男は、その画像を見て愕然とした。
サーベルと呼ばれた男の胸にナイフが突き刺さり、顔に虎のマスクが置かれている。
場所は、どこかの橋の下。

確かに、俺が殺さなければならなかった男だ！
しかし・・・・・・なぜ？　誰が？

男は、なにが起こったのか、さっぱりわからなかった。
妻は、息子の喜ぶ顔に満足げだ。
男は、メールと画像を削除しながら言った。

「よかったね、サンタさんが来て」

それにしても、サーベルを殺し、虎のマスクを置いたのは、いったい誰だ？！
その答えは、ここをクリック！


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