【朝】


今日は、由美のお父さんに挨拶に行く日だ。
緊張して、なかなか眠れなかったけど、大丈夫だ。

由美のお父さんは、すごく厳しいって聞いてるから、まずは身だしなみをキチンとしないと。
第一印象が悪いと、その後の関係を修復するのに一苦労するからな。

靴下に穴が開いていないか。
息はくさくないか。
ワイシャツはプレスされているか。
･･････よし。

昨日は床屋に行って、襟足を短めに切ってもらったし。
正座を２時間し続けても、足がしびれないように１ヶ月前から訓練も積んでおいた。
完璧だ。

考えてみたら、結婚できるのは人間だけなんだ。
人間に許された権利なんだ。
愛し合う二人が結ばれたことを証明する儀式。
そのためには、幾多の困難を乗り越えなくてはならない。

その最大の困難が、お父さんへの挨拶というわけだ。
眠れる森の美女を救出に行く王子様が、終盤になって怪物と死闘を繰り広げる。
そんな心境だ。

まあ、挨拶さえ済ませてしまえば、由美と一緒に暮らせるんだし。
ここは、頑張らなくては。
早く、由美と結婚したいなあ。
オレが帰ってくると、いつも部屋に由美がいる。
そんな生活ももうすぐそこだ。

この前、結婚式のシュミレーションをやったけど、楽しかったなあ。
純白のウエディングドレス。
教会の鐘の音。

あんな未来が待ってるんだ。
お父さんに一発や二発殴られたって、オレは平気だぞ。
こうなったら、当たって砕けろだ。

由美は気が早いから、もうウエディングドレスの用意もしてるし、ハネムーンの予約もしたっていうし。
逃げられないんだよな。

「お父さん。･･････由美さんを僕にください！」
言えるかなあ。
由美のお父さん、相当怖いみたいだしな。

いや、ここは勇気を振り絞るぞ。
初デートの時、由美をオートジャイロから落っことしそうになった。
あの時、心に誓ったんだ。
由美を絶対幸せにするって。

そうだ、ボルテージを上げるために、ハネムーンのチケットを見よう。
「５泊６日、月世界旅行の旅。あのジュール・ヴェルヌも愛した月の世界。そこから眺める地球の姿。心に残る感動の旅をお約束いたします」

月面でのハネムーンが待ってる。
文字通りのハネムーンが。
おお！　ボルテージが上がってきたぞ！

よーし、由美との未来のためだ。
がんばるぞ！

・・・・・・あ、そうだ。
ハンカチを忘れるところだった。
殴られて、鼻血が出るか、最悪は前歯が折れて流血するかもしれないからな。


【昼】


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