【朝】


・・・・・・ボクは、もう限界だ。
自分にウソなんてつけやしない。
だけど、こんなこと、どうやって打ち明けたらいいんだ？

誰も真剣に取り合っちゃくれないよ。
だったら、いっそ、死ぬまでボクだけの秘密にしておいたほうが
いいのかもしれない。

いや、家族にまでウソを突き通せない。
父ちゃんや、母ちゃん、兄ちゃんや邦、桃にだって。
みんなにウソを通して生きていくわけには行かないんだ。

ガン！　ガン！　ガン！　ガン！
｢それ！　みんな起きなあ！｣

ああ、ご飯の時間になってしまう。
とにかく、父ちゃんにだけでも打ち明けよう。
「おはよう、父ちゃん」
「お早う。・・・・・・どうした、なよなよして」

「・・・・・・父ちゃん、俺・・・・・・ううん、なんでもない」
だ、だめだ。
言えないよ。
いくら優しい父ちゃんだって、反対するに決まってる。

母ちゃんなら・・・・・・。
「母ちゃん、今時間ある？」
「朝は、母ちゃん忙しいんだから、後でもいいかい？」
「あ、ああ。別に・・・・・・たいしたことじゃないから・・・・・・」
だめだった。

ボクはどうすりゃいいんだ。
「タツ兄ちゃん、モモがいいこと教えたげる」
「桃。なんだい？　いいことって」

「あのね、【女】⇔男①人間のうち、雌としての性器官・性機能を持つ方。②一人前に成熟した女性。〔やさしい心根や優柔不断や決断の乏しさがからまり存する一方で、強い粘りと包容力を持つ〕んだってサ」

え？
女？
桃は、もしかしてボクの悩みを・・・・・・。
「・・・・・・桃」

「達也ー！　達也ー！」
兄さんだ。
なんだろう？
兄さんにだけは、言えないな。

「なんだよ、兄さん。トイレから大声で」
「お前、悩み事でもあんのか？」
「な、なにもないよ」

「うそつけ！　兄貴の目はごまかせねえゼ」
「本当になんでもないって」
「よし、お前に元気が出るものやるゼ。･･････これを受け取れ！」

「･･････え？　なんだよコレ？　『濡れたトマト』？　うわ！　エロ本じゃないかあ！　いらないよ。俺、こういうの興味ないし」
「いいから、受け取っておけ。気持ちだよ、俺の」
だから、イヤなんだよ。
朝からエロ本もらったって・・・・・・。

・・・・・・でも、研究の材料にはなるかも。
ありがとう、兄さん。

やっぱり、朝、打ち明けるのは無理か。
だけど、今日こそ、みんなの前でちゃんと言うぞ。

「さあ！　今日もみんなでラジオ体操するぞ！」
「オー！」

まずは、朝の体操のとき、
すね毛を永久脱毛したことをそれとなくアピールするとこから、
はじめよう。

「♪あーたーらしい朝が来た。希望の朝だ！」
「♪よろこーびに胸をひーろげ」
「♪大空あおげ～」

いっちにぃ！
いっちにぃ！

誰か、ボクの変化に気づくかもしれない。
そしたら、一気に・・・・・・。
だめだ。
この状況じゃ、女になりたいなんて、やっぱ言えないよ！


【昼】


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