大変申し訳ございません! ― 2010-10-24
トゥーサ・ヴァッキーノのショートショート・ブログ
秘密諜報員 フレドリック・ブラウンを暗殺せよ!
は、今回を持ちまして、終了とさせていただきます。
そして、
またしても新ブログタイトルにて、新装オープンしたいと思います。
皆さまも、ブログタイトルを変えてみませんか?
と、わけのわからないことをお誘いしつつ、
また、その時は、どうぞよろしくお願いいたします。
どうでした?
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予知能力 ― 2010-10-23
満員の通勤電車。
僕はやっとの思いでつり革に掴まった。
前も後ろも、右も左も、ぎゅうぎゅうになって、身動き一つできない。
体が、斜めになっても、僕はつり革から手を放さない。
こうしておけば、チカンと間違われて、逮捕されたりすることはないだろう。
特に、今朝みたいに、目の前に若い女性がいる時は。 彼女は、僕に完全に密着していた。
束ねた髪からのシャンプーの香りが、僕の鼻孔をつく。
彼女は、このすし詰め状態の中、ケータイを取り出し、なにやらメールをし始めた。
すごいもんだなあ、と感心。
メールしてる画面が、僕の目の前にある。
僕は、見るともなしに、内容を見てしまった。
「本日の収穫予定120名」
というタイトルの下に、ズラリと並んだ氏名。
その中に、僕の名前もある。
彼女は、送信ボタンを押した。
そして、すぐにまたメールを打ち始めた。
「午前8時7分収穫しました」
そう打ち込むと、彼女は送信ボタンの上に親指をおいて、時間が来るのを待っているようだ。
収穫?
いったい何を?
僕は、腕時計を見る。
8時6分。
あと、1分しかないじゃないか!
もし、このメールを彼女が送信したら
え? ちょっと待ってよ~。
ここまで読んだら、もうオチがわかっちゃったって?
・・・・・・ってことは
あなたには、予知能力があるゼ!
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偽札 ― 2010-10-19
僕は、買ったばかりの煙草に火をつけて、この田舎道を西へと歩き出した。
夕焼けに目を細めて歩きながら、こんなことを考えた。
適当なデザインでいい。
本物のような感じでいい。
自分オリジナルの1万円を作るんだ。
パソコンで、それなりの雰囲気を醸し出した1万円札。
それを何枚もプリンターで印刷する。
もちろん、透かしだってちゃんとある。
肖像は誰にしよう?
そうだな、坂本龍馬なんかいいかもしれない。
二宮尊徳でもいい。
とにかくそれらしい人物。
手触りもバッチリだ。
ツルツルすぎず、ざらつきすぎない。
完璧な新1万円札。
ざっと100枚。
この札束をポシェットにいれて、僕は田舎へ向かうんだ。
相当な片田舎がいいだろう。
この情報化社会において、インターネットもないような、ケータイの電波も届かないような田舎の煙草屋。
たいてい、そんな煙草屋は老人がやっている。
身寄りのないばあさんが、細々と雑貨何かと一緒に煙草を売っているんだ。
「ゴメンください」
しばらくして、奥の方から、ばあさんが腰を曲げてゆらゆらとやってくる。
「いらっしゃいませ」
「おばあちゃん、一人でこの店を?」
僕はそれとなく、やさしく話しかける。
「ええ。そうですよ」
「さびしいでしょう?」
「そうでもないよ」
ばあさんが、愛想よく僕の話に笑う。
「セブンスター1箱」
「300円です」
やっぱり。
値上がりしたことすら知らないらしい。
「おばあちゃん。煙草は値上がりしたんだよ。440円になったんだ。知らなかったのかい?」
「ああ、そうなのかい? 新聞も取ってねえし、知らなかったよ」
だろうな。
アナログ放送が終われば、テレビも見られなくなる。
そうなれば、偽札情報がニュースで流れたとしても、知る術もないだろう。
「じゃあ、1万円札が新札になったのも知らないのかい?」
「ええ? お札が新しくなったのかい? 知らなかったねえ」
ばあさんは、僕から例の1万円札を受け取り、珍しそうに眺める。
「ほう。こりゃすごいねえ」
「まだ、少ししか出回ってないんだよ。珍しいもんだから、記念にしまっておくといい」
ばあさんは、感心したようにじっくり見て、言われたとおり机の奥へしまうと、9,560円のお釣りをくれる。
僕は、まんまと煙草1箱と9,560円を手にしたわけだ。
それをショルダーバッグに無造作に投げいれ、煙草屋を去る。
情報のない片田舎の煙草屋。
じいさんか、ばあさんが細々と営んでいる店。
新札の1万円札は珍しいと言えば、しばらくは使わないだろう。
その間に僕は、何件も何件もそんな店を訪ね、セブンスターを1箱だけ買い、新1万円札で支払い、そして9,560円を手に入れる。
100店舗回れば、956,000円の利益。
地図を頼りに、そんな店はあっという間に見つかる。
僕は、そこへひとつひとつ印をつけて、悠々自適の一人旅をするのだ。
ざまあみろ。
僕は、煙草の煙を夕空に向けて噴いてみる。
あはは。
ポケットに両手を突っ込んで、猫背で歩く。
もうすぐわが家。
カレーのにおい。
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