米倉 美紅(30歳) ― 2011-10-01
【朝】
【昼】
たこ焼きに命を賭けた男、米倉誠。
お絵描き大好きな娘、米倉萌。
・・・・・・はあ。
どう考えても、金持ちにはなれそうもないわね。
ここはやっぱ、私が、パチンコで頑張らなきゃダメかな。
萌の私立入試もあるし、なにかとお金が必要だもの。
パチンコだけじゃなくて、競馬や競輪だってはじめなきゃだわ。
あら?
ここって、たしか、有名な『占いの館』じゃなかったっけ?
雑誌に紹介されてた。
本当に未来が見える占い師がいるっていう。
ちょっと、寄ってみようかしら。
「すみませーん」
・・・・・・誰もいないのかしら?
真っ暗だわ。
「あの~、すみませーん」
「はい」
「うわっ! びっくりしたあ」
急に後ろから現れるんだもの。
「占いですか?」
「え、ええ。この前雑誌に載ってたのを拝見したものですから。よく当たるんですよね?」
「占いは、ギャンブルではありません。見えた未来をお教えするだけです」
なんだか、難しいこと言うのね。
まあ、よくわからないけど、とにかく当たったらいいから。
「わかりました、わかりました。占ってもらえますか?」
「・・・・・・それでは、ここへお座りなさい。今、ちょうどお昼を食べていたところですから、ナポリタンスパゲッティ占いと、カップスープ占いから、選んでください」
は?
何?
ナポリタンスパゲッティ占いと、カップスープ占いだ?
今、食ってる昼飯で、占うっていうの?
手相とか、姓名判断とかじゃなくて・・・・・・。
大丈夫かしら。
「・・・・・・あの」
「ご心配にはおよびません。占いの媒体はなんであれ、結果は同じなのです。こだわりを捨て、肩の力を抜いてください」
「あ、はい。えーと、じゃあスパゲッティで」
「スパゲッティ・・・・・・かしこまりました」
あ、スパゲッティをただ食べてるわ。
他人が昼飯食ってるトコを見てるだけって感じ。
あらら、結局、スープも飲むんかい!
「・・・・・・見えました! ここのケチャップのシミをよく見てください。この3つのシミは、あなた方家族をあらわしております。一番大きいのが、旦那様、これが、あなた。そして・・・・・・娘さんかしら」
あ、当たってる!
すごいわ。
「はい、そうです。私の夫はたこ焼き屋をやってまして、私はいつも、たこ焼きばっかり食べさせられており、そんなので、文句ばっかり言ってしまうんです」
「なるほど。しかし、その結果、あなたの旦那様は、究極のたこ焼きを作ることができるでしょう」
「究極のたこ焼きですか?!」
すごいじゃない、誠!
理想のたこ焼きに向かって、がむしゃらに頑張ってきた甲斐があったってもんよね。
「・・・・・・ただし」
「ただし?」
「客足が増えるってわけではないようです」
ああ、そうなんだ。
そうだよねえ。
ガックリ。
「娘は、どうでしょう? 将来は金持ちになれるでしょうか? あ、いや、私立に合格するでしょうか? 本土の有名私立小学校へです」
「本土の私立・・・・・・スパ・・・・・・スパスパ、スパゲッティ~!!」
激しいなあ。
ケチャップ飛び散りまくってるわ。
「私立へ入れるか・・・・・・見えました」
「で、どう見えたんでしょうか?」
ドキドキ。
ワクワク。
「・・・・・・努力次第です」
「え? 当たり前じゃないの!」
「ですが、その努力も必ず報われるというわけではありません。今日、今日1日を無事乗り越えなければ、娘さんはおろか、我々全員が、どうなってしまうか、わからないんです!」
なんなの?
今日1日って。
いつもと、変わんないじゃない。
「どういうことですか?」
「それは、わからないのです。今日より先の未来が、すっかり見えなくなってしまっているのです! 島全体の未来が真っ黒な雲に隠されているかのように、まったく見えないのです!」
なんなの?
ってことは、未来を見ることなんてできないってことじゃない。
インチキ占い師め!
「あ、そうですか。じゃあ、帰ります」
「それでは、占い料として、1万円いただきます」
「バカ言わないでよ! 今日のこともロクに占えないっていうのに!」
ああ、くだらない。
やっぱ、パチンコやるしかないようね。
【夕】
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森 秀明(21歳) ― 2011-09-28
【朝】
【昼】
50年くらい前までは、虫へんに、文って書いて、蚊っていうのがいて、夏になると大発生して、人間なんかをチクチク刺しては、血をチューチュー吸ってたって聞いたことあるけど、ホントにそんな生き物がいたら、ゾクゾクするよな。
で、チクっとやられて、チューチューされたあとで、バシン!って叩き潰すんだ。
すげえ。
サドとマゾが一度に味わえる。
まさに、一粒で二度おいしい瞬間。
惜しいなあ。なんで、絶滅しちゃったんだろう。
「いらっしゃいませ! ギガ・スポーツへようこそ」
なんだ?
あの店員、俺を見るなり、チェって顔した。
こんな色白のシロブタ野郎が、スポーツなんてすんのか?っていう顔。
ああ、もっと軽蔑された~い。
蔑まれてみた~い。
ここなら、アウトドア用のロウソクとか、売ってるはず。
ぶっといヤツ。
火をつけて、少しすると、トロっと溶けた蝋がジワジワ盛り上がってきて、その熱くなった液体を・・・・・・。
ぐぐぐぐぐ。
考えただけで、興奮する!
「あ、あのぅ。つかぬことをお伺いしますが・・・・・・」
お、なんかこの店員、いい筋肉してるな。
こういう筋肉質の男に、なじられながらケツを叩かれてみたい。
「はい」
「えーと。ロウソクとかありますか?」
ああ、怪訝そうな表情。
たまらん!
「ワックスですか?」
「いえ、あの、ロウソクですよ。火をつけると、タラタラと溶けて・・・・・・あ、いえ、キャンプ用の、アウトドアのロウソクです」
「キャンプ用ですか・・・・・・。ウチには置いてないですねえ」
え?
ないの?
ガーン!
「他にロウソクはないですか? ぶっといヤツ。ゴツゴツした」
「ちょっと、お客さん、ウチはスポーツショップですから」
ちくしょう。
計画は失敗か。
あと、なにか痛そうなグッズないかな。
縄跳び用の縄か・・・・・・。
うん。
こりゃ、いい感じにうっ血しそうだ。
お?
登山靴。
スパイク部分がいいなあ。
「オイ、テメェ!」
「え? 俺?」
なんだろ、この兄ちゃん、急に突っかかってきた。
「今、オレにガン飛ばしたろ。 あーん?」
怖い目つきで睨んでる。
「い、いえ」
「ナメてんじゃねえぞ、コラ! オレを誰だと思ってんだ?」
「し、知りません」
「テメェ。昔は島でも、札付きのワルって言われてた番長の田中だ!」
「番長? 田中? し、知りません。聞いたこともありません!」
うう、胸ぐら掴まれた!
いいぞ!
もっと、もっとグリグリしてえ!
「・・・ああ、いい」
「な、なんだテメェ。なによがってんだ? キモイんだよ!」
あ、もうおしまい?
チェッ。
「誰カー! 助ケテクラッサーイ! サラヲ助ケテクラッサーイ!」
今度は、なんだ?
うお!
凄い金髪美女が困ってる。
助けてあげよう。
「どうしたんですか?」
「サラ、助ケテホシイデス」
「なんでも、言ってください」
「ホント? ナンデモイイノ?」
うう、この人を疑ったような目つき。
もっと疑われたい。
「ええ、俺にできることなら」
「・・・・・・ジャ、歯ヲ食イシバッテ」
「え? 歯を?」
なんだろう?
「ソシテ、目トジテ、手ハ後ロ」
何が始まるんだ?
まさか、キス?
バシッ!
バシッ!
「痛っ!」
「アーッハハハハハ! 叩クノッテ、スゴク気持チイイネエ!」
バシーン!
「何するんですか!」
「センキュー! グッパイ!」
ああ、行かないで!
もっと、もっと殴っていいんだ!
頼む!
もっと~!
でも、なんかいい日だなあ。
蔑まれたり、なじられたり、ビンタされたり。
スポーツショップってのも、なかなか穴場だな。
【夕】
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増田 梓(17歳) ― 2011-09-25
【朝】
【昼】
「・・・・・・と、いうわけで人類は、何度も異星人の侵略を受けてきたわけだ。特に、サードインパクト前の100年間は、人類の存亡をかけた戦いと言ってもいいだろう。『駆ける馬戦争』については、教科書の・・・・・・69ページに説明があるので、アンダーライン!」
あ、『駆ける馬戦争』って、知ってる!
佐野先生が大事だって言ってた。
優しい声で。
うふふ。
これで、勉強さえなければ、佐野先生とラブラブでいられるのに。
わたし、佐野先生と結婚してもいい。
「じゃあ、サードインパクト後の異星人参政権について。その問題点を言ってみろ・・・・・・えーと、増田」
え?
わたし?
どこだっけ。
「梓、74ページだよ。ほら、2項目」
「74ページ・・・・・・竹之内君、ありがとう。・・・・・・えー、異星人による緩和的な侵略につながるからです。たとえば、テレビなどで、マスコミが、異星人の芸能人を過度にもてはやしたり、異星人への納税の義務を人権侵害だと主張するようなことがあり・・・・・・えーと」
「よし、増田、よく勉強してきてるな。マスコミへの異星人文化の浸透については、次回の授業で詳しくいうことだから、まあ、そのへんでいいだろう。」
ふう、よかった。
これも、佐野先生のおかげ。
「竹之内君、助かったわ」
「いいんだ。それよか、増田、お前、親のことなんて呼んでるんだ?」
親?
竹之内君、どうしてそんなこと聞くんだろう?
まあ、いいわ。
「ママと、パパ。・・・・・・だけど、わたしパパのこと大っキライだから、パパなんて呼ばないけどね」
「・・・・・・ママ・・・・・・かあ」
「でも、なんで?」
「い、いや、なんでもないんだ。気にすんな」
変なの。
さ、復習しなくちゃ。
『駆ける馬戦争』っと。
復習、予習は学習の基本だって、佐野先生が言ってた。
佐野先生。
今日、会ったら、吾郎さんって言ってみようかな。
ダメダメ、言えない言えない。
ああ、早く授業終わらないかなあ。
夕方は佐野先生が来るもん。
楽しみだなあ。
地獄の中にいて、唯一の楽しみ。
佐野先生と、ずっと一緒にいたい。
【夕】
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