よごれている本(『ボッコちゃん/エヌ氏の遊園地』より)2010-11-12


私にとって、この本は特別だ。
何にも代えがたい。
大切な思い出が詰まった、私だけの本。

この本は、本棚のずっと奥にしまってある。
誰にも、見せたりはしない。

この本を開く時、私は家中に鍵をして、カーテンを閉め、誰からも覗かれないように、慎重に辺りを確かめる。

大丈夫。
誰にも見られていない。
私は、安心して、本棚の奥から、この特別な本をゆっくりと取り出して、
ズシッとくるその重さを確かめる。

ああ、この表紙の感触。
じっくりと愛撫して、私はページをめくる。
本の中には、沢山の思い出が詰まっている。

楽しいエピソード、つらいエピソード。
ページが進むにつれ、私の鼓動が高鳴ってくる。
私は、最後のページまできて、そのページをめくる手を止める。

どうしても、私には最後の1ページをめくれない。
涙が頬を伝う。

だけど、いつまでも悲しい思い出に浸っているわけにはいかない。
いつもなら、このまま本棚の奥へしまうところだけど、今日は違う。
私は、決心して、今度こそ最後のページをめくることにした。

最後のページの隅を摘まんで、めくると、ガサついた擦れるような音がして、ページが徐々にめくれていく。

この本は、私だけの特別なもの。
ああ、この表紙・・・・・・彼の皮膚。
たとえ、こんなにも腐乱が進んで、もう持っていることすらやっとの本だとしても、世界に1冊しかない、私だけの特別な本なのだから。


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コメント

_ tatsu ― 2010-11-13 00時54分26秒

映画「ザ・ウオーカー」と言う映画で
核戦争により文明が崩壊した未来。
世界で一冊だけ残る本を運び、30年間旅をしている男イーライ、
を思い出しました。

_ tatsuさんへ ― 2010-11-13 08時26分30秒

本がなかなか捨てられなくて増えちゃうんですよ。
でも、だからといって図書館で借りて読むのも面倒だし。
ですから最近は読書しないようにしてるんです。
最後の1冊を選ぶとしたらtatsuさんは何がいいですか?

_ りんさん ― 2010-11-13 18時43分12秒

わあ、どれだけ古い本なんだろう。
誰にも見せない自分だけの本。
私も本好きなので、わかる気はしますが、もうちょっときれいに保管しようよ…とツッコミたくなっちゃいます(笑)

「N氏の遊園地」は、すごく好きな本で、中学のとき友達に貸したことがあります。
「つまらなそうなタイトルだね」と読んでやるよ、的な態度で借りていった友達が、「何これ~、すごく面白いね~、ありがとう!」と180度態度を変えて返してきた、という思い出があります。

_ 矢菱虎犇 ― 2010-11-13 18時43分49秒

そうか!
そうだった!
ここのブログはユーチューブのリンクをつけると、はねつけられてましたね!
僕は今日、朝から何度も何度も同じコメントを入れようとして失敗していたんです。これで7回目です(泣)
理由がやっとわかりました。
ちょっと今から外出なんで、また夜中にコメントを書きに現れます。

_ おりんさんへ ― 2010-11-13 21時23分56秒

なかなかわかりにくい感じだったので、ちょっと書き替えました。
この本は、実は彼でできてるって設定だったんです。
彼が死んで、その皮膚や内臓なんかで作った世界でたった1冊の本。

>「N氏の遊園地」は、すごく好きな本
本ってのは、思い入れが強いですよね。
ボクもユリシーズって本に思い入れがあるんです。
読書の秋っすから、ボクもなんか読んでみようかなあ。

_ 矢菱さんへ ― 2010-11-13 21時26分49秒

すみませーん。
なんだか、そういうのが入れられない設定になってるみたいなんですよ。
スパム対策かなんかですね。
世知辛い世の中です。。。

この前、ボクもお返事しようとして、何度やっても入らないので
おっかしいなあと思ったら、NGワードってのがあるんです。
それでダメでした。
世知辛いなあ。
これに懲りずに、またコメントよろしくお願いします!

_ 矢菱虎犇 ― 2010-11-13 22時44分05秒

ただいま~!・・・というわけで、先程は外出前に謎が解けて大慌てでコメントを入れちまい失礼しました。
ツイッターのほうにも泣き言を入れていたもんだから・・・
さて、僕は今朝の6時過ぎに以下のコメントを書いて、はじかれて、
お昼にも同じのを書いてはじかれて、夕方にもはじかれて・・・
以前にも一度二度こういうことがあったのに、すっかりパニくってしまいました。というわけで、以下朝のコメントです。

『90年頃に活躍していて突然芸能界から消えた早瀬優香子さんという女優&歌手がいて、彼女に「ララバイ」という曲があります。切々と子守歌を囁くみたいな感じで、歌の終わりに仕掛けがあって。秋元康さんの作詞でした。今回のお話を読んで、あの歌を最初に聴いてゾッとしたのを思い出しました。
お時間のあるときにでもお聴きくださいませ。
(・・・この部分にララバイの動画へのリンクを入れていました)

昨晩りんさんが「最後の一葉」を書いておられるのを読んで、僕も矢菱版「最後の一葉」を書きたくなってアップしたんです。そしたら銀河径一郎さんも同じ頃に「最後の一柿」。はからずも「最後の一葉」競作になってしまいました。こいつはひとつ、ヴァッキーノさんも?・・・とむちゃブリをしてみたり』

・・・以上が朝書いて投稿失敗したコメントです。
いや~勝手にお騒がせしましたぁ!
どうです?「最後の一葉」。やっつけろ番外編ってことで。

_ 矢菱さんへ ― 2010-11-14 06時17分40秒

おはようございます!
どぶろくは効きますねえ!
でも、今朝早く起きたんですけど、目覚めもいいし
二日酔いでもなんともないんですよ。
けっこう酔っ払ったんですけどね。

そんなわけで、早瀬優香子さんの歌、さっそく聞きました。
最初、森田童子かと思うような歌い方だったんで、なんて言ってるかわかんなくて、ボリュームをあげちゃったんですけど、
なるほど!
今回ボクが書いた話しと、オチが似てますねえ。
まあ、あっちは冷蔵庫に人間の姿のまま入れてるわけですけど(あ、ネタバレっす)
しかし、よくこういう歌詞をかきましたなあ。
っていうより
矢菱さんは、よくこの歌手のこの歌をしってましたねえ!
すごい!

>どうです?「最後の一葉」。
よーし、朝一発目、書いてみますかあ。
って、本当の『最後の一葉』を読んだことないんですけど・・・・・・・(笑)

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