不倫の味2010-05-09


妻に俺の不倫がバレてしまった。
もちろん、妻から直接言われたわけじゃない。
しかし、態度でわかる。

不倫相手は、秘書課の女性。
俺より一回り以上も若い。

彼女とは、体だけの関係だ。
お互い、したい時だけ連絡を取り合い、都内のホテルで合流する。
若い彼女は、好奇心が強く、俺の要求以上のことをしてくれるし、俺も彼女の要求に応えている。

精神的なつながりがない分、俺に罪悪感はなかった。
だが、妻がその彼女との関係を知っているとしたら、話は別だ。

きっと、許してはくれない。
それどころか、どんな手段で復讐されるかわからない。

妻は、きわめて模範的な女だ。
家事や育児に関しては、まさに完璧主義者だ。
そういう点では、自由奔放な不倫相手とは対照的と言っていい。

妻は、いつか必ず俺に復讐するだろう。
もしかしたら、食事に毒を盛るかもしれない。
それとも、寝静まった夜に俺の首を締めあげるかもしれない。
俺は、そう思うと不安で、おちおち眠ることさえできなくなった。

しかし、俺の方から妻へ謝罪するわけにもいかないだろう。
なぜなら、妻から明らかな証拠を突きつけられたわけではないからだ。
もしかしたら、俺の思いすごしかもしれないし・・・・・・。

会社へ行くと、秘書課の彼女がしばらく休んでいるという噂を耳にした。
一抹の不安が俺を襲い、慌てて彼女へメールしてみた。
架空の会社名を使い、架空の取引先を装って。
それが、万が一に備えた、俺と彼女との秘密の通信手段だ。

すると、すぐに彼女から返事が返ってきた。
無事だ。
まさか、妻が彼女を殺すことはないだろうが、それでも、長い休みというのは、心配だったから、まずは一安心といったところだ。

今日は、まっすぐ家へ帰ろう。
「ただいま」
「おかえりなさーい」
玄関のドアを開け、妻が上機嫌で俺を出迎えてくれた。
そうか、なにもかも俺の思い過ごしというやつか・・・・・・。
俺は、ほっと胸を撫で下ろした。

「今夜は、煮込みハンバーグよ」
「ハンバーグ? へえ、何年ぶりだろう。新婚の時はよく作ったもんだけどな」
「そうよね、なんだかその頃に戻ったみたいね」

俺は、妻の作った煮込みハンバーグを食べた。
「うまい肉だね。どこで買ったんだい?」

「買ったんじゃないの。あなたのお得意先の会社から、お中元で送られてきたのよ・・・・・・ほら、この会社よ」
俺は、宅急便のお客様控えの会社名を見て、愕然とした。

「こ、この会社は・・・・・・」
俺と不倫相手の彼女との通信手段で使う架空の会社じゃないか!
ということは、この煮込みハンバーグは?!

「どう? おいしいでしょ? お肉がいいと違うわね」
「まさか、そんな・・・・・・」

俺は、恐怖に言葉を発することもできず、ただただ妻の顔をみつめた。
妻は、にこにこしながら、新たな料理をテーブルへ置いた。

「はい、目玉焼き」


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コメント

_ tatsu ― 2010-05-09 12時33分52秒

ハンニバルの世界でしょうか、
架空の会社のメルアドをゲットして彼女が生存している
アリバイまで作る、この奥さんには敵わないでしょう。

_ おさか ― 2010-05-09 14時15分22秒

目玉焼きコワー!

ところで不倫&人肉食といえば、アレですよ。グリーナウェイの「コックと泥棒、その妻と愛人」。大泥棒で大悪人の夫のDVに悩み続けた妻が、レストランで出会った男と不倫、発覚して相手は夫の部下に殺されてしまうんだけど、その復讐としてとった方法が
「夫に男の姿焼きを食べさせる」
だったんですねえ。立場は逆だけど、この妻と同じ匂いを感じるなあ。愛って怖いですわあ。

_ ヴァッキーノ ― 2010-05-09 14時15分44秒

tatsuさん
ヘンリー・スレッサーっていうアメリカの作家は
ショートショートばっかり書いてたんですけど、
そのほとんどが、SFか犯罪ものなんですね。
それで、ブログ名にあやかって、
ボクもできるだけそういう路線でいきたいんですけど。

>アリバイ
って、いい響きですねえ。

_ ヴァッキーノ ― 2010-05-09 14時29分12秒

おさかさん
不倫もフリちんもどっちも恐ろしいですね。
>夫に男の姿焼きを食べさせる
ホイル焼きでしょうか?(笑)
人間なんて食べれたもんじゃないですよ、きっと。
でも、腸だったら、ホルモンとして食べれなくもない気がします。
あと、「生きてこそ」って映画では、冷凍になったお尻の肉を食べてましたねえ。
もぐもぐ。。。

_ hiro1468 ― 2010-05-09 23時59分16秒

束の間の安心感からの、ドーーン
目玉焼きとか怖すぎる…
奥さんは一体どうやって不倫相手の携帯を入手したのでしょう…。
しかし…ヴァッキーノさんの描く女の人怖い…

_ ヴァッキーノ ― 2010-05-10 18時59分47秒

hiro1468さん
>女の人怖い
そうなんですよ。
女の人って怖いですよねえ。
いっそのこと、ひと思いに殺してくれって思ってしまうほど
怖いことってありますよ。
あ、ないですか?

_ 矢菱虎犇 ― 2010-05-10 20時15分22秒

うっへ~
すっかりコメント書いた気になっていましたよ、僕は。
僕は人を食べるみたいな人を食った話は苦手なんです。
苦手ってのも、食べてみたら苦かったってことじゃないし・・・
昔、親の脛をかじったことはありますが、なかなか食えないヤツでした。耳ならかじったことがありますが、そりゃパンか・・・
もおええって?
う~ん、こ、これはさすがに食えません。

_ ヴァッキーノ ― 2010-05-10 20時53分32秒

矢菱さん
ボクもこうなったら、なにかかじったとか、食べたつながりを
やりたいんですけど、だ、ダメだあ!
歯が立たない!
飯のタネにもならないものを書いてますけど
喉元過ぎれば熱さ忘れるっていうことで(笑)

立出喰う虫も好き好きなんでしょうねえ。
飲み込みが悪くてすみません。。。

_ おっちー ― 2010-05-11 21時51分07秒

 馬鹿虎ステーション最初の投稿な訳ですねえ!
 こうきましたか。

 確かに「目玉焼き」はおっとろしいです。

 みなさん新作で偉いなあ。
 僕なんか過去作品の焼き直しですよ。
 しかもたぶん2作品しか書きませんよ。
 まあ書いてみたら、初投稿の時の作品よりはだいぶマシになってきてたんで、少しだけ安心してましたけど(笑)。

 近々アップします!
 僕も参戦です^^

_ ヴァッキーノ ― 2010-05-12 19時20分50秒

おっちーさん
こんな感じの
ちょっと、キモ怖みたいなお話にしてしまいました。

>初投稿の時の作品よりはだいぶマシ
そういえば、ボクも高校生の頃書いたものを
たまに見つけて、読むことがあるんですけど
案外、そっちの方が面白かったりして、焦ります(笑)
鉛筆で、一生懸命ノートに書くって大切なことなんでしょうねえ。

_ 唯 ― 2010-07-16 23時47分12秒


こんばんは!
矢菱虎犇さんのところにお邪魔している唯です!

バカいわシアターコンテスト、グランプリおめでとうございます!
来週の放送で読まれるのが楽しみです♪

_ 唯さんへ ― 2010-07-17 00時03分31秒

ありがとうございます!
ボク自身、寝耳に念仏、青天のメケメケで、非常に焦ってます。

てなわけで、この「不倫の味」なんていう、物騒なお話が
バカいわシアターコンテストで、グランプリ!?
そんなバカな!

なんていいつつ、とってもうれしい限りです。
唯さん、ボクは、こういう有頂天な気分の時って
案外、どん底に叩きつけられるような気がして、不安になったりするんです。
便秘が治ったって思った瞬間、下痢が止まらなくなるような
そんな感覚でしょうか?
いや、ち、違いますね(笑)
こんごとも、よろしくおねがいいたします!

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