同窓会2010-06-27


「もちろん、来るんだろ?」
電話の向こうでノートンが言った。
ノートンの声は、普通の大人の男より、少し甲高い。
彼は子供のころ、タコに似てたから、タコノートンというあだ名だった。

「ああ、行きたいのはやまやまなんだけど・・・・・・」
どうにか理由をつけて、断りたかった。

「マーリンも、エイリアスも来るんだぜ。お前が来なかったら、話にならないじゃないかあ」
ノートンは、僕を説得する。

この前、新入社員の僕らへ向けて、先輩が社会人としての心構えのようなものを教育してくれた。
なんの役にも立たないキレイごとがほとんどだったが、
たとえば、宴会場でのビールの注ぎ方とか、エレベーターでの会話の仕方などだ。

その中に、宴会の上手な断り方というのがあったことを思い出した。
僕は、ノートンの話を聞くふりをして、バッグから教育資料を取り出した。

≪断る理由は、いろいろあると思いますが、その理由をくどくどと言ったのでは、ただの言い訳になります。相手は、理由を聞きたがっているのではありません。参加の可否を知りたがっているのです。ここでは、決して言い訳をせず、『所要があって行けません』と言いましょう。それ以上はプライベートなことなので、深入りしてこないはずです。≫

なるほど。
僕は、さっそくこの手を使うことにした。
「ノートン、すまん。僕はやっぱりその日は、無理だよ。行けないんだ」
これでよし。
僕一人くらい欠席したとしても、実際のところ、幹事のノートンは何も困らないはずだ。

「まいったなあ。・・・・・・どうしても来れないのか? だって、同窓会はまだ半年後だぜ。そんな先の予定も埋まってるなんてありえんだろう」
「だから、所要が・・・・・・」

「いったい、どんな所要だよ。教えてくれないか? もし、キャンセルできないようなことなら、オレが代わりに交渉してもいいんだぜ」
まいったなあ。
タコノートンのしつこさに閉口してしまう。
タコの吸盤みたいにしつこい!

そこまでして、僕に来てほしいのか?
うれしいような、恥ずかしいような。
「いやいや、それはまずいだろう。他のヤツらの予定もあるだろうし」
「大丈夫だよ。同窓会をやろうっていう話は、オレとお前、それからエイリアスにしかまだ詳しく言ってないから」

「エイリアスにだっていろいろ・・・・・・」
「・・・・・・ちょっと待ってろよ。今、珍しいヤツと変わるから! ・・・・・・来いよ!」

それから電話の向こうで、笑い声が聞こえたり、足音が響いたりしていたが、急に雑音が入って、ボーボー鳥のような声が聞こえてきた。
「やあ、元気かい? 何年振りだろうね! 僕のこと、わかるかい?」
「忘れるもんか! エイリアス!」

エイリアスとは、子供のころ、ずいぶん仲良く遊んだ。
エイリアスのお父さんは、宇宙工学の仕事をしていて、留守がちだったが、彼の家はとても裕福で、最新式のおもちゃやゲームが沢山あった。 僕らは、時間を忘れて遊んだものだ。

「同窓会、来てくれるだろう?・・・・・・ね? 久しぶりに会いたいよ」
エイリアスに言われると、断りきれなくなってしまう。

ああ、行きたくない!
この気持ち、エイリアスならわかってくれるかもしれない。
僕は、正直なところをエイリアスに打ち明けることにした。

「エイリアス。もちろん僕は、君やノートン、それからバーバレラにだって会いたいよ。だけど、ダメなんだ。僕は、本当は同窓会になんて行きたくないんだ! 転校生だった僕は、君たちとの学生生活に、最後まで馴染めなかった。・・・・・・それは、わかってくれるだろう?」
僕は、下唇を噛んだ。
学生の頃の、疎外感を思い出したからだ。

「ああ、君がいつも寂しそうにしていたのは、わかってたさ。だから、なおさら、同窓会には来てほしいんだよ」
「・・・・・・いや、やっぱり行けないよ。君たちは、本当に僕に親切にしてくれたし、仲良く遊んでもくれた。だけど、僕はもう関わりたくないんだ。ゴメンよ。僕はどうしても同窓会には行けない」

「・・・・・・わかったよ。残念だけど仕方ないさ。でも、みんなきっとわかってくれると思う。・・・・・・なあ、ノートン!」
「ああ、もちろん! だけどよ、俺たちが、お前のところに遊びに行ったら、喜んで会ってくれよな!」
ノートンが、電話の向こうで叫んだ。

「もちろんだとも! いつでも、遊びに来てくれよ!」
本当の友達というのは、こんな清々しい連中のことを言うのだろう。
僕は、何度も何度も心の中で謝った。
そして、彼らと同窓生だったことを誇りに思った。

「・・・・・・あははは! 言ったな? いつでも遊びに来ていいんだろ? じゃあ、窓の外を見てみろよ!」
エイリアスから電話を変わったノートンが悪戯っぽく笑って言った。

「ま、まさか・・・・・・おまえ!」
「そのまさかさ! 来ちゃったんだよ~!」

僕は、受話器を置いて、窓へ駆け寄った。
「う、うそだろ・・・・・・」

僕は目を疑った。
今まさに、空一面を覆い尽くさんばかりの、光り輝く超巨大宇宙母艦が、雲を引き裂いて、ゆっくりと降下してくるのが、窓の外に見えたからだ。


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今回のこのお話「同窓会」は、舞さんの紹介で、前回勝手に競作させてもらった『タイムスリップタクシー』に引き続き、面白そうなんで、ボクもまたまた乗合させていただこうと、勝手に書いてしまったものでーす!
とにかく「同窓会」「同級生」「クラスメイト」なお話ならルールは特にないようですので、みなさんも、是非!
詳しくは、舞さんのブログへGO!
以下、今回の企画に参加している方のブログです。
●舞さん
●ia.さん
●おりんさん
●矢菱虎犇さん
●つとむューさん


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コメント

_ りんさん ― 2010-06-27 18時43分34秒

ブログタイトルが変わりましたね。
かっこいい~!!

私も同窓会で書いてみました。
ヴァッキーノさんの同窓会、宇宙規模なんですね。
スケールが大きいわ。

私だったら、ここまで言われたら行きますけどね。喜んで。

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-27 19時30分56秒

おりんさん
最初書いた時、ちょっと長すぎたんです。
つまり、どうしても同窓会に行けない理由や
同級生のキャラを説明する部分。
世界が終ってしまったって状況なんかを。
だけど、会話に重点を置いて、説明っぽいとこや
どうでもいいエピソードを削って、
つじつまをあわせてしまいました。

>ここまで言われたら行きますけどね。喜んで。
ですよねえ。
でも、宇宙船がないから行けないっていうオチってのも、いいかも(笑)

_ 舞 ― 2010-06-27 22時09分34秒

ありがとうございました。
早速リンク貼らせて頂きますね。

なんだかNHKでやってるようなアメリカのショートドラマを
観ているような感覚でした。
最後はすごく清々しいようなちょっと笑っちゃうような
そんなストーリーでした。
私もこんなの書いてみたいです・・・(^^;

_ ヴァッキーノ ― 2010-06-27 22時22分23秒

舞さん
今回も前回のタイムスリップタクシーに引き続き
参加させてもらいまして、ありがとうございます。
人がやってる企画にちゃっかり便乗するって
楽しいくて、サイコーですね!

>アメリカのショートドラマ
おお!
気づいてもらえましたかあ!
今回、ブログタイトルを変えての第1弾だったので
アメリカンショートショートっぽくしてみたんです。
ブログタイトルの「フレドリック・ブラウン」って人は
実は、アメリカの小説家なんです。
ショートショートや、短編の名手として有名です。
ヘンリー・スレッサーもショートショートの達人なわけですけど
たぶん、フレドリック・ブラウンの方が、有名です。
そんな大作家を暗殺しようというブログタイトル!
意気込みを感じません?
・・・・・・あ、感じませんよねえ(笑)

また、よろしくお願いします!

_ ia. ― 2010-06-28 00時18分47秒

こんばんは。
私も海外の青春ドラマのような物語だと思っていたのですが、壮大なオチに笑っちゃいました。
押したり引いたりの会話が楽しいですね。サクサクと読めました。
でも同窓会に行けない理由が知りたかった気も(笑)

ブログタイトル、変更されたのですね。
今後はスパイ小説なども書かれるのかな?
RSSを変更しておきますので、もしタイトルに誤りがあれば連絡ください。

_ tatsu ― 2010-06-28 00時26分18秒

♫♪「ソ」「ラ」「ファ」オクターブ下の「ファ」「ド」♪♬

(声に出して繰り返して見てください)

_ 矢菱虎犇 ― 2010-06-28 06時46分41秒

外国人の同窓会かよっ
タコかよっ
NHKの海外青春ドラマかよっ
バーバレラかよっ
宇宙人かよっ
・・・と、ツッコミ入れながら楽しく読ませていただきました。

同窓会がお題ですか~
何だかそんな感じの色恋ドラマを妻が見ていました。
僕はいそいそとパソコン前に逃げるんですけどね(笑)
そんな僕には難しいお題だぁ!(汗)

_ ia.さんへ ― 2010-06-28 19時40分17秒

>押したり引いたりの会話
ボクは、会話文を書くのがどうも苦手なんです。
普通っぽく自然にしようとして、キーボードの上を
行ったり来たりしてしまいます。
キャラクターに深みがないので、どの会話も画一的になってしまいます。
でも、今回は会話をたくさんにしてみました。
さくさく読んでいただいてうれしいっス!
ありがとうございます!!!

>同窓会に行けない理由
転校生の彼だけが地球人だったんです。
それで、そのほかの人たちの容姿がキモくて生理的にうけつけないんですね。そういうことだったんです(笑)

_ tatsuさん ― 2010-06-28 19時50分37秒

ミッチーとのソーグー!
ですね!
口ずさむとすれば
ファ~ファンファ~・ファ・ファ~♪
って感じですか。

あの映画に出てたシンセサイザーはヤマハなんです。
ヤマハの伝説的なシンセサイザー”SY-1”
ボクは小さい頃エレクトーンを習っていたんですけど
ヤマハの”SY-1”、欲しかったあ!

_ 矢菱さんへ ― 2010-06-28 19時54分17秒

同窓会ですよ、同窓会!
どうしようかい?
なんつって。

今回は、流れ的にはオーソドックスな感じだったと思うんです。
アメリカンショートショートっぽかったら、成功です。
オチがバレないようにするのが一苦労でした。
あと、ラストの描写。
むずかしいもんですねえ。
同窓会っていってもこんな感じになっちまいますよ、ボク。

_ おさか ― 2010-06-29 17時13分46秒

うおっ、
久々に来たらいろいろ変わってるう。
壮大な「来ちゃった~」ですねー。
いいなあ宇宙船、欲しい。
今からチャリでお迎えだ~。

_ おさかさんへ ― 2010-06-29 19時21分22秒

そうなんですよ~。
このブログタイトル!
なんだか、昭和のボードゲームっぽくてカッコイイでしょ?

今回の「同窓会」は、みんなでひとつのお題に乗っかって
書いてみよー!って企画に参加したものなんです。

おさかさんも、「同級生」「同窓会」「クラスメイト」ってお題で
なんか書いみませんか?
こぽこぽこぽ。。。

_ 蝶子 ― 2010-07-01 13時50分15秒

『転校生』の写真がよいわー♪ この映画、大好きでしたの。

_ もぐら ― 2010-07-01 22時46分15秒

お邪魔しまーす。
やっぱりヴァッキーノさんは宇宙が似合う!
タイトルが変わって ますます 磨きがかかってきましたね。

宇宙人でも地球人でも 心は同じだ!
でも 会話の合間合間にピリリとしたモノが効いていて最後までテンポよく読めました。

今回も楽しみ逃げします。
ありがとうございました。

_ ちょーこさんへ ― 2010-07-02 21時34分57秒

お返事、遅くなってスイマセン。
連日の飲み会で、パソコンを開くことができませんでした。

「転校生」って、なんとも地味な映画でしたけど、よかったですよね。
いかにも少年と少女が大人になる、その瞬間みたいな気分になります。

尾道・・・・・・行ってみてぇ~!

_ もぐらさんへ ― 2010-07-02 21時37分55秒

>やっぱりヴァッキーノさんは宇宙が似合う!
SFですなあ。
でも、これはちょっと長すぎましたか?
もう一度読み返してみましたけど、
長すぎですよね。
また、よろしくお願いします!

_ つとむュー ― 2010-07-02 22時06分24秒

「転校生」ですか・・・
小林聡美が「なんじゃ、こりゃー」って脱いだのと、階段をゴロゴロと転がるシーンしか覚えていません(泣)
SSFCもやっと終わってほっとしています。厳しい現実を目の当たりにしました。
ところで、「同窓会」というお題で僕も書いてみましたが、微妙な作品になってしまったので、どうしようか迷っています(初対面?の方へ提出する内容ではないかもしれません。汗)。
「つとむュージアム」に置いてありますので、取り扱いはヴァッキーさんにお任せしたいと思います。

_ つとさんへ ― 2010-07-03 07時16分49秒

>SSFCもやっと終わってほっとしています
いやはや、まったくそうですね。
なんかボクとしては、商店街の八百屋に置かれている
トマトになった気分でした。
いろんな人に掴まれて、いじくられてぶにょぶにょになってしまったような(笑)
文章塾とは違ったビビり感はありました。
世界は広い!
楽しかったです。

あ、つとさん、『同窓会』、書いてくれたんですね!
ありがとうございます!
さっそく、リンクするようにやっておきますゼ。

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