第4話:ある占い(『おのぞみの結末』より)2010-12-13

メリー・クリスマス!クリスマス競作やりましょう!


《第3話:『老人と孫』へ》


世界は、得体の知れない暗黒にスッポリと包まれていた。
でも、そんなことはお構いなしに、予定通り行われるクリスマスパーティの会場へ向かった。

パーティ会場は、横浜中華街の朝陽門まで歩いて2、3分のところにある、どっしりとした作りの比較的新しいホテルのホールで行われることになっていた。
ライトアップされた氷川丸の前を通ると、港からの風が強くなった。

月も星もない夜。
腕時計を見ると、5時30分を少し回っていた。
パーティは6時30分からだ。
道路を渡れば、すぐ会場がある。
だけど、始まりにはまだたっぷりと時間があった。

私は、中華街まで歩いて行ってみようと思った。
朝陽門。
朝の太陽が当たる門という意味なのだろう。
実際この門は東を向いて堂々と立っている。

異国の、特にアジアの雰囲気が湯気とともにわき上がり、むせかえるような、香辛料の香りが漂う中に、何人かのサンタクロースの格好をしたサンドウィッチ・マンが、プラカードを掲げて、叫んでいた。

私は、占いでもしてみようと思った。
この急におかしくなってしまった世界の中で、自分がこれからどう生き抜いていけばいいのか、私にはさっぱり見当もつかなかったから。

時間はまだある。
手近なところで、あそこの手相占いをやってみよう。
裸電球を店の軒下にぶら下げて、赤いテーブルに肘をついている白髪の老婆が、『手相占い』という看板を寂しげに眺めていた。

私は、透明なビニルのカーテンを押し上げ、その老婆の前に腰を下ろした。

「両手を・・・・・・」
そう言って、老婆は私の両腕を卵でも摘まむように掴むと、赤いテーブルの上に置いた。
私は、この老婆に、魔術をかけられ、知らぬ間に、手だけをもぎ取られてしまったのではないかと思うほど、私の両手は無感覚だった。

「・・・・・・だいたいわかりました」
老婆が、カタコトの日本語でそう言って、私の顔を見た。
「で、何について占いましょうか?」

「未来について、お願いします」
私は、すごくマジメな表情で老婆に言った。
「占いとは、たいていの場合、未来についてのことなんですよ。未来の何ですか?」

「え? ああ、そうですよね。・・・・・じゃあ、この先、どう生きていけばいいのか、それから、この、今日か、すくなくとも昨日の夜からはじまった暗闇の先には何があるのか・・・・・・」
私がそこまで言うと、老婆は困惑したような笑みを浮かべて、私の掌をグイっと伸ばした。

「お客さんの手だけじゃ、この真っ暗の先まで占うのは無理だね」
「そうですよね」
「そうですよ」
そう言って、老婆は私の運命線に伸びた人差し指の爪を当てた。

「だけども、これからの運命はわかる。お客さんの運命は、暗闇から解き放たれ、光に満ち溢れているところへと続いておる。しかも、それは、遠くない未来に起こる・・・・・・だから、大丈夫。自信を持ちなさい」
「遠くない未来に光? ってことは、この暗闇の世界もいつかは・・・・・・」
私が、どこまでも広がる暗闇を見上げると、老婆はガサついた手を私の手に重ねた。
パシン! といういい音がして、老婆が微笑んだ。
「・・・・・・はい。1000円になります」


≪第5話:『闇の眼』へつづく≫

『はじまり』は、こちらをクリック


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コメント

_ haru ― 2010-12-13 18時23分15秒

どんどんミステリアスな世界が広まり、引きずり込まれていくようです。
不思議が不思議を呼ぶミステリーゾーンへと、私は足を踏み入れて、
すでに4歩目。。。
5歩目には、何が起こるんでしょうねぇ?楽しみですねぇ
それでは、さよなら。さよなら。さよなら。
解説は淀川長治さんでした。ハイつぎCMスタート。。。

_ haruさんへ ― 2010-12-13 19時11分40秒

はじめの1歩!
あんたがたどっこさ♪
行きはよいよい帰りはこわい。
そんなわけで、ボク自身、何を書いてるのか
そんでもってこれが連作なのか
わからなくなってきましたよ(笑)
矢菱さんのことわざクイズみたいに
10話くらいをめどにしようと思ってま~す。

_ Madam Garden ― 2010-12-13 19時31分51秒

C国4千年の歴史~って感じが漂っててミステリアス。
続きがますます楽しみ。
 
はあ~、横浜中華街の中華料理が食べたいです。
あっちのほうがおいしい。

_ Madam Gardenさんへ ― 2010-12-13 19時52分38秒

横浜中華街に行ってきました。
まるた小屋っていう激安のラーメン屋さんで
ねぎチャーシューラーメンを食ったんです。
具は少なかったけど美味しかったです。
Madam Gardenさんの舞台がC国なので
今回は、それにリンクしたようなしないような
そんなお話しにしてみましたあ!

_ tatsu ― 2010-12-13 20時12分41秒

暗闇の世界・中華街の朝陽門・占いの老婆
私の運命線が差す明るい未来

バシン!はい、1000円になります。

そうか、うらないは買うんだった。

_ 矢菱虎犇 ― 2010-12-13 20時43分29秒

いろんな場面が次々と重なって、どんな世界が紡ぎだされていくのか楽しみです。神妙な顔で読んでいるところでバシン!こういう展開、ヴァッキーノさん好きですよねぇ(笑)

僕はついについのべっす。
どういうことになるかわかんないんですけど、今度はしばらくついのべで行こうかなと思ってるんです。

_ tatsuさんへ ― 2010-12-13 20時53分31秒

新宿駅の西口をセンタービルに向かって出て、少し歩いたら、前にtatsuさんが写真に撮ってたLOVEって文字を重ねたオブジェのある横断歩道に出ました。
ボクはそこで無意識にtatsuさんの姿を探したんです。
変ですね(笑)
>うらない
売らないのに買う!
おお!
ダジャレだあ(笑)

_ 矢菱さんへ ― 2010-12-13 20時58分56秒

ジャンジャン連なって、そんでモリモリ重なって、しまいにはなにがなんだかわからない感じになっちゃうってのが好きです。
まるでボクの部屋(笑)
まだまだバラバラと続きます。
お付き合いくださ~い。

ついのべってボクはショートショートよりハードハードですよ。
そういうのがポンポンとポップコーンみたいに弾き出されてきちゃうんだからスゲエなあ。
勉強させてもらいます!

_ りんさん ― 2010-12-14 17時35分46秒

ちょっと希望の見える終わり方ですね。
これはクリスマス当日まで続くのでしょうか。
楽しみです~^^
ところで、私も占いネタを書きました。

_ おりんさんへ ― 2010-12-14 18時58分56秒

>クリスマス当日まで続く
わかんないんですよ~。
とりあえず、10話くらいかなあとおもってるんですけど
マダム花園さんに呼応するようになんとか連作続けます。

>私も占いネタ
haruさんが、マッチ占い少女ってのを書いていたので、
ボクもそれにリンクするように占いネタ書いてみたんです。
そしたら、おりんさんも!
こりゃ、すごい。
リンクしてますねえ。

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