第7話:秘密結社(『かぼちゃの馬車』より) ― 2010-12-17
メリー・クリスマス!クリスマス競作やりましょう!《第6話:『現象』へ》
僕は、ぼんやりとテレビから流れる同じ電波を脳へ吸収し続けていた。
ホテルのモーニング・サービスが来て、ボーイが気まずそうな笑みを浮かべながら、「メリークリスマス」と言って、僕からチップを受け取ると、サンタの帽子を取って一礼し、すぐに部屋から出て行った。
彼女は、ザ・ビートルズのアイ・ウィルを歌いながらシャワーを浴びていて、僕は、とてつもなく腹ペコだった。
こんなに腹が減ったことを意識したのは、大学2年生の5月以来だと、自分で決めつけておいて、それがやけにおかしくって、笑いながらライ麦パンを頬張った。
世界が終わろうという時でも、人はやたら腹が減るもんだ。
スクランブル・エッグとエシャロットを取り皿に取り、僕は飲みかけの赤ワインをグラスに注いだ。
ワイングラスの中で揺れる、赤ワインの向こうに、彼女の下半身が沈んでいるように見える。
彼女は、髪をタオルで乾かしながら、ババロアみたいな胸を揺らして、僕に近づいてきた。
「おいしそう!」
そう言って、彼女は皿からベーコンを摘まみあげ、大きな口の中へ放り込んだ。
僕の体に、朝の活力がみなぎってきた。
地球が暗闇に覆われても、生物としての本能は失われないのだ。
「もう一度、抱いてもいいかい?」
彼女は、少し驚いたように目をぱちくりさせて、ベーコンの脂がついた人差し指を舐めながら、悪戯っぽくうなずいた。
僕は、ワインをグイッと飲み干して、彼女を抱いた。
ソファに押し倒し、体と体が寄りそうと、彼女の華奢な体から湯上りの熱が伝わってきた。
「・・・・・・私、探偵を雇ったのよ」
僕の上に覆いかぶさった彼女がそう言った。
「探偵?」
「そう。最近、なんだかKの様子がおかしかったから」
「だけど、探偵を雇うなら、君じゃなくてKの方じゃないか? 僕らの関係からして・・・・・・」
僕は、彼女の尻を抱え込んだ。
「彼は、もう私たちのこと気づいてるみたいなの。だから、愛なんてないのよ。私のことより、Kは何か、もっと別のことに心を奪われてしまったの」
「と、いうと?」
「探偵の報告だと、得体の知れない宗教のようなものに入信していると言うのよ」
そう言って、彼女は僕から離れると、バッグの中から写真を何枚か出してきて、僕に見せた。
「大きな目みたいなものの周りに、たくさん人が集まってるね。まるでフリーメイソンみたいだ」
「怖いでしょ。・・・・・・探偵は、Kが秘密結社の幹部だって言ってたわ」
「秘密結社? 本当かい?」
「ええ」
彼女は、僕の隣にきて、写真に映っているマントに身を包んだ何人かの男たちの中から、一人を指さしてた。
「これが、Kかい?」
「どうしよう」
「・・・・・・で、探偵は、その秘密結社について、どこまで調べ上げたんだい」
そう訊ねると、彼女は寒そうに肩をすくめて、下唇を噛んだ。
「探偵は、死んだわ。事務所が全焼したの。もしかしたら、Kがやったのかもしれない! そのことを考えると私、怖いのよ・・・・・・。私たち、もうおしまいなのかもしれない」
「私たちって・・・・・・僕らのこと?」
彼女は、震えたままで、それ以上は応えてくれなかった。
あの暗闇が、彼女の心の奥底にまで浸食しはじめているような、そんな絶望的な、とてつもない冷たさを僕は彼女の震える背中に感じた。
どれくらい長い間 あなたを愛し続けてるか 誰も知らない
今でもあなたを愛しているの
ずっと寂しいまま生きていかなくちゃならないの?
あなたがそう望むなら わたしは待つわ
あなたを見かけたけど
名前も知らなかった
だけど そんなことどうでもいいの
わたしの気持ちは変わらないから
いつまでもずっと愛してるわ
わたしの心全部であなたを愛してる
一緒にいるときはいつでも
それから離れてても あなたを愛してる
いつかわたしがあなたを探し出したら
あなたの歌声がそこら中を満たしてくれる
よく聞こえるように大きな声で歌ってほしい
わたしをあなたのところへ導いて
あなたの全てがわたしを抱きしめる時まで
約束よ きっと
・・・・・・きっと
≪つづく≫
『はじまり』は、こちらをクリック
どうでした?
ブログ村のランキングへ参加中です!
ブチッ!と、クリックお願いしま~す。
↓
にほんブログ村
コメント
_ 矢菱虎犇 ― 2010-12-18 00時54分04秒
_ tatsu ― 2010-12-18 01時42分29秒
ヤマトの出番は無くなりそうですね。
近未来から60年代にタイムスリップしたような雰囲気です。
ザ・ビートルズのアイ・ウィル
ビートルズ世代なのに知りませんでした
良い曲ですね、特にこの娘達の歌が良いですね。
近未来から60年代にタイムスリップしたような雰囲気です。
ザ・ビートルズのアイ・ウィル
ビートルズ世代なのに知りませんでした
良い曲ですね、特にこの娘達の歌が良いですね。
_ 矢菱さんへ ― 2010-12-18 07時09分59秒
ビートルズのI Will、曲は決まってたんですけど、どの画像にするかテキトーなボクには珍しく悩みました。
オーソドックスにビートルズの歌声でいこうか、それとも女性のカバーにしようか・・・。
でも、矢菱さんがアリス・コンプレックスだって思い出して、
子供が歌ってるヤツにしました(笑)
気に入ってもらえてよかったです。
オーソドックスにビートルズの歌声でいこうか、それとも女性のカバーにしようか・・・。
でも、矢菱さんがアリス・コンプレックスだって思い出して、
子供が歌ってるヤツにしました(笑)
気に入ってもらえてよかったです。
_ tatsuさんへ ― 2010-12-18 07時12分59秒
>ヤマト
まだわかりませんよ~(笑)
もしかしたら・・・・・・。
>ザ・ビートルズのアイ・ウィル
画像の下の日本語訳は、実はボクが「ヴァッキ誤訳」してみました。
近年まれにみる困難な作業でしたあ!
まだわかりませんよ~(笑)
もしかしたら・・・・・・。
>ザ・ビートルズのアイ・ウィル
画像の下の日本語訳は、実はボクが「ヴァッキ誤訳」してみました。
近年まれにみる困難な作業でしたあ!
_ haru ― 2010-12-18 16時30分15秒
新宿の目。やっぱりなにかを暗示する目だったんですね。
ミステリアスにだんだん確信に近づいてきているようですが、
まだまだ何が起こるのかワクワク・ドキドキで~す。
ヴァッキーノさんのミステリーゾーンの中にすっぽり入って
しまいました。「ここはどこ?私はだれ?」って感じかなぁ(笑)
ミステリアスにだんだん確信に近づいてきているようですが、
まだまだ何が起こるのかワクワク・ドキドキで~す。
ヴァッキーノさんのミステリーゾーンの中にすっぽり入って
しまいました。「ここはどこ?私はだれ?」って感じかなぁ(笑)
_ haruさんへ ― 2010-12-18 19時01分36秒
自分でも、なんだかツジツマを合わせようとしているような
・・・いや、フェイントかもしれないし(笑)
作者自身のボクもあと3話、どうするかまったく決まってません。
あんがい、11話完結とか、そういう中途半端に終わるってこともあるかもしれませんゼ。
・・・いや、フェイントかもしれないし(笑)
作者自身のボクもあと3話、どうするかまったく決まってません。
あんがい、11話完結とか、そういう中途半端に終わるってこともあるかもしれませんゼ。
_ haru ― 2010-12-18 20時54分52秒
追伸 アイ・ウィルのヴァッキーノさん訳。とってもステキです。
心に染みました。そして。。。勇気が湧きました。。。
心に染みました。そして。。。勇気が湧きました。。。
_ haruさんへ ― 2010-12-18 21時08分50秒
そう言ってもらえると、酔っ払ってるせいか
なんだかすごくうれしいです。
英語が苦手なボクですが、辞典と歌詞のにらめっこでした。
ですが、ほとんど誤訳かも。。。
なんだかすごくうれしいです。
英語が苦手なボクですが、辞典と歌詞のにらめっこでした。
ですが、ほとんど誤訳かも。。。
_ 銀河径一郎 ― 2010-12-19 01時31分01秒
連作でスケールが大きいですね!
ビートルズのI Willを使うあたりがお洒落です。
サスペンドな男女、この後の展開も楽しみ。
さらに名訳までつけてもらってご馳走様でした!
某政党の隣のビルのカメラメーカーの看板が目みたいで
気持ち悪いですよね。そしたらひとつ前の総理がフリー
メーソンのキャッチフレーズ友愛なんていうからどうなるか
と思ったらただの政治オンチみたいでしたね(笑)
ビートルズのI Willを使うあたりがお洒落です。
サスペンドな男女、この後の展開も楽しみ。
さらに名訳までつけてもらってご馳走様でした!
某政党の隣のビルのカメラメーカーの看板が目みたいで
気持ち悪いですよね。そしたらひとつ前の総理がフリー
メーソンのキャッチフレーズ友愛なんていうからどうなるか
と思ったらただの政治オンチみたいでしたね(笑)
_ 銀河径一郎さんへ ― 2010-12-19 09時10分50秒
いやあ、大風呂敷を広げすぎちゃいましたあ!
不倫の男女。
暗闇に閉ざされた世界。
プラネタリウムの老人と孫。
横浜の男とK。
謎の目。
秘密結社。
なんのこっちゃ?
ってな感じで残すところあと3話!
どうするどうなる!!!
乞うご期待!
無理だああああ(笑)
不倫の男女。
暗闇に閉ざされた世界。
プラネタリウムの老人と孫。
横浜の男とK。
謎の目。
秘密結社。
なんのこっちゃ?
ってな感じで残すところあと3話!
どうするどうなる!!!
乞うご期待!
無理だああああ(笑)
_ りんさん ― 2010-12-19 16時36分31秒
人間関係が複雑に絡み合ってきましたね。
どんな結末に持って行くのか楽しみです。
これ、不倫の話なのに、歌声がすごくきれいで、純愛のようでした。
どんな結末に持って行くのか楽しみです。
これ、不倫の話なのに、歌声がすごくきれいで、純愛のようでした。
_ おりんさんへ ― 2010-12-19 20時34分06秒
>不倫の話なのに、歌声がすごくきれいで、純愛のよう
ステキなフレーズですね。
不倫も、最初のきっかけは、もしかしたら純愛かもしれませんよね。
ボクとしては、浮気も不倫も麻薬と同じで、ゼッタイ、だめ!ってシロモノなんですけど、お話にするのは、いいですね。
セックスの場面を登場させやすいんですよ。
ステキなフレーズですね。
不倫も、最初のきっかけは、もしかしたら純愛かもしれませんよね。
ボクとしては、浮気も不倫も麻薬と同じで、ゼッタイ、だめ!ってシロモノなんですけど、お話にするのは、いいですね。
セックスの場面を登場させやすいんですよ。








それにしてもこのアイウィル、絶品ですね。
フォークしかもオールディーズの香りがする曲が天使の歌みたいに聞こえて、何度も繰り返して聞き惚れました。