キューピッド(『おみそれ社会』より)2011-01-24


タカシの母は、産後のひだちが悪く、タカシを産んだあと、しばらく寝込んでいたが、あっさりと息を引き取ってしまった。

母の死後、タカシの父は再婚することもなく、男手ひとつで彼を高校まで育てあげた。

タカシの成績はとても優秀で、大学への進学を強く薦められたが、遠く離れた東京へ、父を一人残して行くわけにはいかないと考え、地元の町工場へ就職した。

就職して間もなく、父は借金を苦に自殺してしまった。
正義感の強い父は、会社の負債を肩代わりしたのだった。

タカシは、とうとう独りきりになってしまった。

「なんて、不幸な青年だろう」
天使は、タカシを見てそう思った。

「どうにかして、タカシ君には幸せになってもらいたい!」
しかし、天使にできることは、相手の心をキューピッドの矢で射って、叶わぬ愛を成就させてやることだけだった。

「ああ、私はなんて役立たずな天使なんだろう・・・・・・今の彼に愛する人などいるわけもない・・・・・・」
そうつぶやきながら、天使はタカシの心の中をそっと覗いてみた。

「・・・・・・おや? これは、同じ工場で働く事務員の春子ちゃんじゃないか・・・・・・。そうか、タカシ君は、春子ちゃんのことが好きだったのか!」
天使は、うれしくなって、白い羽根をパタパタやって喜んだ。

「タカシ君が愛する春子ちゃんをその腕にしっかりと抱きしめることができたなら、どんなに幸せだろう! よーし、天使の腕の見せ所だ!」
天使は、タカシと春子が一緒に話しているところを見計らって、キューピッドの矢を春子の胸めがけて射った。

天使の矢は、ピンク色に煌めき、光の尾を引いて、一直線に春子の胸めがけて突き刺さった。

「ハッ!」
春子は、タカシと話しているうち、突然、胸がキュンとするのをおぼえた。

そして、次の瞬間、春子の胸からおびただしい血が噴き出し、床へ滝のようにボトボトを音を立てて滴り落ちた。

「・・・・春子さん! ・・・・・・いったい何が起きたんだ!」
タカシは、血まみれの春子をその腕で、しっかりと抱きしめた。


今日も読んでいただきありがとうございます!
日本ブログ村に参加中です。
ポチッ!と、クリックお願いしま~す。
  ↓
にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

コメント

_ 海野久実 ― 2011-01-24 20時50分47秒

な、なんですか!?
この結末は。
そりゃー、天使の矢が刺さると痛いような気がしますけど~
突っ込む前にやられた感が大きかったですね。

たぶんこの天使は、恋の矢と間違えて本物の矢を使っちゃたんでしょうね。
キューピッド殺人事件?
いやいや、これは業務上過失致死です。

_ 海野さんへ ― 2011-01-24 21時00分49秒

もう少し長かったら、きっとオチを読まれてしまう。
でも、もっと短かったら、オチで驚かない。
そのせめぎ合いでしたあ(笑)

ショートショートを書いてて、いつもびくびくするのは、このオチです。
文中にオチのことを匂わせすぎると、読んでくれる勘の鋭い方々にすぐに気付かれてしまうんです。

>突っ込む前にやられた感

そう感じていただけると、やったあ!ってなるんですよー!
海野さん、あなたは天使です!
ありがとうございます!

グサッ!

_ haru ― 2011-01-24 21時02分06秒

あらら!胸にしっかりと抱きしめることができた。って……?!。
だからさぁ~、それとこれとはちがうんだってば。
うっそー!おんなじでしょう?
みんなが、いくら天使に教えても理解不能のようです。
だって、この子はきっと堕天使ではないかと……ブツ、ブツ。。。

_ haruさんへ ― 2011-01-24 21時06分28秒

まさか、画像みたいなかわいい天使が、矢で人を殺すとは思わなかったでしょ?
なんて、不謹慎なショートショートなんでしょうね。
ほのぼのとしたハッピーエンドが、どうしても書けない!
ああ、ボク自身はけっこうほのぼのしてるんですけどねえ。。。

>この子はきっと堕天使
なるほど!
その手がありましたね!
haruさん、あなたは天使です!

グサッ!

_ 矢菱虎犇 ― 2011-01-24 21時49分40秒

僕はもうこんなふうにヴァッキーノさんが粗筋っぽく淡々と不幸な生きざまを書き始めると、すってんころりんなオチを期待してしまうのでした。
脇道なしにオチに向かって矢のようにまっしぐら、スカッとさわやかコカコーラ!

_ 矢菱さんへ ― 2011-01-24 22時05分47秒

そうなんですよね、「タブー」に引き続き
牛すじ、いえ粗筋でタンタンとやってて
矢菱さんが頭を夜霧、いえよぎりましたよ(笑)
で、こりゃイカン!っつって、
急降下オチをブチかましましたあ!
裏の裏の裏をかいたつもりが
そのまんま。
矢菱さんはボクの心をお見通しっすねえ。
あなたはボクの天使です!

お尻に
ザクっ!

_ もぐら ― 2011-01-26 16時21分15秒

これでどうだ!!くそーーー!

_ もぐら ― 2011-01-26 16時24分31秒

あややや!ごめんなさい!。
この間からずっとコメントできなくて。
あ、なーんだ普通に「星」って入れればよかったのか。
いやぁヴァッキーノさんのことだから きっとなにか仕掛けがあるに違いない
と思ってあーでもないこーでもないとやってました。
うわー私バカだなぁ。
こんな私でも天使になれるー?

_ りんさん ― 2011-01-26 16時42分24秒

最後の1行、笑いました。
この天使、「ああ、いいことした」とか思ってるんでしょうか。
きっと地獄域行きですね。
心はとってもピュアなのにね。

↑ もぐらさん、私も最初やりました。
星をスターって書きました。
開けてもらえませんでした。

_ もぐらさんへ ― 2011-01-26 19時06分25秒

そんなにキーボード叩いたら
ぶっ壊れるぅー!
ほら、言わないこっちゃないです、
PCから星がチカチカ出ました
なんつって(笑)

いやはや、スパム防止フィルタだそうなんですよ。
お手間とらせちゃって、すんません!

そんなもぐらさんは、ボクの天使だあ!

ストン!

_ おりんさんへ ― 2011-01-26 19時10分12秒

愛のキューピッドなんて言ってますけど、
きっとその愛を成就させるためには、他の誰かの運命が
変えられちゃうんだと思うんですよね。
人智を超えたところに、愛ってあるんでしょうから。

>星をスターって書きました
どてー!

☆とか、森とか、じゃないですからね!(笑)
そのまんまでいいんですよ~。
なんだか、面倒かけてしまってます。

そんなおりんさんは、ボクにとって天使そのものです!

ズババッ!

トラックバック