小堺 杜夫(52歳)2011-05-22


・・・・・・死にたい。

明日までに10万円振り込まないと、手形が不渡りになっちまう。
家中のものが、こんなに差し押さえられて、どうすりゃいいんだ。

はあ・・・・・・。
ガスか。
いっそガスでも吸って、死んだら楽なんじゃないか。
一家無理心中とか。
ううう、台所に立っていても、死ぬことしか考えられなくなってる。
無関係の麗子まで死なせるわけにはいかんな。

ピピピピピ
《ミナミの帝王 様より着信中》

ぐぐぐ、また借金の取立てか。
このままじゃ、会社にまで来る勢いだな。
出るべきか・・・・・・無視するべきか。

しかし、ここで無視したら、あとでどうなるかわからんな。
「も、もしもし。おはようございます。・・・・・・いい目覚めだなんて、そんな滅相もございません。・・・・・・ハイ。明日までには、必ず。利息だけでも・・・・・・。いえ、そのようなことは。。。・・・・・・金が手軽に入るところを紹介してくれるんですか?・・・・・・え? 腎臓を売る? いえ、それだけは・・・・・・。ハイ!」

なんて連中なんだ。
とりあえず10万円、なんとかしないと。

会社に行っても、従業員にどう説明すりゃいいんだ?
今月の給料は払えないかもしれないなんて、言えねえよな。
でも、言わないわけにもいかないし。
言うべきか・・・・・・言わないべきか。

そうだ。
会社へ行くのやめて、どっか枝ぶりのいい木でも探して・・・・・・。
いや、首吊りは死んだあとの処理が大変だっていうから、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないし。

だったら、島の岸壁から飛び込んで・・・・・・。
それも、もし捜索ってことにでもなったら、自己負担が半端じゃないし。 どうしよう。

はあ、悦子はのん気なもんだな。
借金返済予定カレンダーに思いっきり赤い丸つけて『ワイン教室』なんて書き込んでやがる。
「なあ、悦子・・・・・・。ワイン教室、やめてもらえないか? ウチもこんな状態だし・・・・・・」
「ほざいてないで、金作りなさいよ! アンタはどうなっても、私はずっと私のままなの! アンタのために、私も仕方なく犠牲になって、造花作る内職やってんのよ! さっさと仕事しろ!」

俺のこの50年はなんだったんだ。
小さいながらも、長年の夢だった出版社を始めたのが15年前。
あのころはよかったな。
悦子もまるで女優みたいにキレイだった。
いつから人生の歯車が狂いだしたんだ?

俺の人生は結局、こうやって、死に場所を探すために時間を費やしてきただけだというのか!
死ぬことを考えるんだったら、なんでもできるはずだって、よくいうけど、死ぬことしか思いつかない俺に、なにができるっていうんだ?

あーあ、特需のころが懐かしいな。
また世紀末が来ないだろうか。
・・・・・・無理か。

こうなったら、会社に火をつけてやろうか。
火災保険に入ってるし。
出版社だから、紙に引火したら全焼間違いなしだ。
それで、一緒に焼け死ねば、生命保険も下りてくるし。

いや、せめて従業員には、しっかり説明しよう。
死ぬのは、それからでもできる話だ。

そろそろ出勤か。
憂鬱だな。
借金取りが会社に押しかけてきたらどうしよう。

・・・・・・いつでも死ねるように、ロープだけ持って出かけよう。


【昼】


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コメント

_ haru ― 2011-05-22 17時03分05秒

グスン(涙)あ、鼻水(タラリ)テ、ティッシュ(グシュ!)。。。
お気の毒に、聞くも涙、語るも涙のお話ですね。(泣)

だいたい会社名が良くないんでは?
(株)終倒出版社なんてねえ。……え、ちがう?(株)秋冬出版社だって!
あらら、でも読み方はおんなじでしょう??

あの~、奥さんの悦子さんが若いとき、女優みたいにキレイだったて?
ふう~ん、今の画像からは信じがたいような……ねえ!……人のこと言えた義理じゃなかった。「スミマセンデス」

_ りんさん ― 2011-05-22 17時29分16秒

今までになく不幸な人ですね。
(幸福捜査官なのに)
「ワイン教室やめてくれ」には、こんな深刻な叫びがあったんですね。
がんばって!小堺さん。

_ haruさんへ ― 2011-05-22 19時06分41秒

人生ってのは、うまくいきませんなあ。
神様は、どうして人間にこんなにも試練を与えるんでしょうね。

そうか、きっと真面目に生きてきた人なんていないのかもしれない。
みんな不真面目だから試練があるんですね(笑)

出版社も、どうなることやら・・・・・。
難しい立場っすよね、彼は。
一度死にたいって思いはじめると、
なかなかその世界から抜け出せなくなっちゃうんだろうなあ。

ボクは死にたくないですよ。
少なくとも幸福操作官を書き上げるまでは
死ねませんぜ。

_ おりんさんへ ― 2011-05-22 19時13分07秒

あんまり「死にたい」ってのを
こうして文章にして、しかも多分なんの救いもないという展開のお話しって
珍しいんじゃないでしょうか?
ファンタジーとかだと、たとえ死んでも
死後の世界とかあるけど
この幸福操作官には、そういう都合のいいものは
アイテムとして用意しないつもりなんです。

小堺さんにとっての幸福は、
きっと死ぬことなのかもしれないですね。

でもどうなるか・・・・・
昼以降の成り行きを見守ってやってください!

_ 海野久実 ― 2011-05-22 21時02分44秒

ひょっとして、ビンゴだったらごめんなさいなのですが。

夕方ぐらいに小堺さんが自殺しちゃって、「夜」が空白になるっていうのは面白いかもしれませんね。
アップされてる~と思って見に来ると、何も書かれていない。
でもアップされている。
そうかー、小堺さんは自殺しちゃったんだ…
と、ちょっとさみしくなる。
400も書くんですから、中にはそんなのもお勧めです。

_ 海野さんへ ― 2011-05-22 23時45分20秒

ナイスなアイディア
ありがとうございます!
日頃から、バッドエンディング好きで
死んだっていうオチが嫌いではない
ボクですけど、今回は、誰も死なない路線
なんですよ。
しかし、そういうオチも本当に捨て難い~!

もう少し悩ませてください。

_ もぐら ― 2011-05-23 16時49分23秒

うわー わかるなぁ。
これが現実。これは実話?
「死」にとりつかれると ほんとに他のことが見えなくなるんですよね。
ヴァッキーノさん なんとかしてあげてください。

_ もぐらさんへ ― 2011-05-23 18時45分10秒

どんなお話しを書くにしろ、
そこに生と死、もしくはそのどっちかがないと
っていうか、ほとんどの場合、多分その2つは存在してるんだろうなあと思うんです。

死の観念は一度こびりつくと、なかなか取れない油汚れみたいにシミになってしまうんでしょうね。

現実だと、誰も手を差し延べてはくれないので(制度としては差し延べてくれるかも)、死にたい人は、どんどん死んでしまうんです。

小堺さんについては、ボク次第ですけど(笑)

_ 矢菱虎犇 ― 2011-05-23 20時24分22秒

今日という一日が特別な一日になりそう・・・という意味では、小堺さんの今後に興味が湧きます。こういう悲惨な状況にある人こそ、『幸福操作』が必要ですもん。

_ haru ― 2011-05-23 20時44分18秒

いよいよ明日ですね。(o^-^o)マチドウシイナ!(オマエが待っててどないするねんテカ?)

_ 矢菱さんへ ― 2011-05-23 20時45分03秒

明日も生きてるってこと前提で
ボクらは何気に笑ってるんですけど
いつかその笑いが終わる時が来るんですね。
そうなる瞬間、ボクは大笑いしてやろうと
思ってるんです。

小堺さんには、できることなら特別な一日であってほしいんですけど
そんなにうまくはいかない!(大笑)

_ haruさんへ ― 2011-05-23 21時08分49秒

とうとうパソコンが治る日がやってまいりました!
いやあ、1ヶ月ですからね。
なげぇ~!!!

明日は仕事を休みます(笑)

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