妖怪マイヨマイネ2010-07-21


大統領が椅子に座った。
黒いスーツに身を固めたSPたちが、大統領の周囲に3人いて、無線機でどこかと頻繁に連絡を取り合っていた。

局長が、大統領の隣の椅子にゆっくりと座った。
配線がゴチャゴチャと張りめぐらされたヘルメットへ伝送されてくる波長の様子を慎重にモニターで確認しながら、いくつかのスイッチを押した。

SPがもうひとつのヘルメットを何度も確認し、それを大統領の頭に被せた。
研究員が、大統領の目の前にある装置のスイッチを押す。

「OKです。局長」
「了解。それじゃあ始めましょうか」
局長が、研究員たちの方へ目で合図を送った。

「・・・・・・ちょ、ちょっと待ってくれ」
「どうしたんですか? 大統領」
「いや、やはり不安でね。君たちの話が本当だとしても・・・・・・脳の中をいじられるというのは・・・・・・」
「大統領、何度も説明したはずです。脳を直接いじるのでありません。夢の中に出てくる妖怪を退治するんです」
局長が、感情を出来るだけ抑えながら、大統領に言った。

大統領は、その妖怪にいつも悩まされていたのだった。
妖怪の名は、マイヨマイネといった。

悪夢を見るだけなら、なにもこんな大掛かりなことはする必要なない。
問題は、妖怪マイヨマイネが悪夢を現実世界に解き放ってしまうということにあった。

先の戦争も、同時多発テロも、また、預言者の出現と、隕石の落下も、核ミサイルの誤発射に関することも、すべて、大統領の夢の中で起きたことだった。

「世界に秩序をもたらすためです! 大統領!」
「・・・・・・わかった。やってくれ」
大統領が目を閉じた。
局長が、研究員たちに改めてもう一度合図した。

「あ!」
大統領は、目を閉じてすぐ、唐突に叫んで起き上がると、何事もなかったかのように首を振って、また目を閉じた。

「スイッチON!」
研究員がスイッチを押すと、一瞬で大統領と局長は眠りについてしまった。

すぐに、マイヨマイネが大統領の夢の中に現れた。 そして、なにげなく大統領に近づいてきて、その尖った唇で、どんよりと囁くのだった。 「この世界のどれほどの出来事に、アナタが関与していらっしゃるんでしょう?」 大統領は、椅子から身を起こし、SPの方を見た。

SPは、妖怪マイヨマイネになっていた。
「大統領、アナタの夢が現実になれば、どれだけの人間が混乱に陥るのでしょうね? いや、世界だって終わってしまうかもしれませんよ」
妖怪マイヨマイネはそう言うと、背ビレをビクっと動かした。

「マイヨマイネ君だね」
大統領の隣から、SPに話しかける男がいた。
局長だ。
マイヨマイネは、不意をつかれて、少し驚いたように目を大きく見開いた。
「アンタは、私を退治しにきたってわけですか?」

局長が笑った。
「退治? まあ、そうなんだが、本当の目的は違うんだよ、マイヨマイネ君。我々は、実はテロリストなんだ。夢を操作する研究なんてのは、大統領暗殺計画を遂行するための口実にすぎないんだ」

「え? テロリスト?」
「そう、大統領の夢の中で、大統領を暗殺する。そうすれば、誰にも邪魔されず、いとも簡単に・・・・・・」
そう言うと、局長がSPの目を見た。
SPは、それを合図に、胸ポケットからピストルを取り出して、大統領のこめかみに当てた。

「ちくしょう! こうなったら、大統領暗殺の前に現実世界に出ていくまでさ!」
「そうはさせるか! やれ!」
SPが、引き金をひいた。

「・・・・・・装置解除!」
目を覚まして、局長が叫んだ。
研究員が、装置のスイッチをOFFにした。

これで、大統領を暗殺することができる!
もうじきこの現実世界で、SPが大統領のこめかみに銃口を向けるはずだ。

ついで、大統領が目を覚ました。
「局長、どうだったかね? 妖怪マイヨマイネは退治できたかね?」
「はい。退治いたしました!」

大統領は、少し怪訝な表情になった。
「なら、よかった。・・・・・・いや、実は局長、私は、最後の夢をあまりよく覚えていないんだ」
「最後の夢・・・・・・といいますと?」
「いや、寝てすぐに見た夢はよく覚えているんだよ。・・・・・・一瞬だったがね。マイヨマイネも出てきた」
「もしかして、装置をつけてすぐに叫ばれた時のあれが・・・・・・」
局長はゴクリと生唾を飲み込んだ。

「そう、あの時、私は一瞬で夢を見たのだ。場所は、この研究施設だった。いつものようにマイヨマイネが現れて、SPの横で頷くんだ。私はSPの顔を見た。するとそれが合図であるかのように、SPが、局長をピストルで撃ち殺してしまったんだ! 私は、恐ろしくて思わず叫んでしまったというわけさ。 ・・・・・・まあ、妖怪マイヨマイネを退治したということだし、心配はいらないと思うんだがね」

「そんな!」
局長は、青ざめた顔でSPを見た。
SPの顔が、みんな妖怪マイヨマイネになっていた。


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コメント

_ tatsu ― 2010-07-21 23時48分07秒

大統領の夢の中で起きたことが現実になる、これは実話ですよね。
大量破壊兵器を隠していると一方的に空爆して大統領を死刑にしてしまい
隠されていたはずの兵器は見つからなかった。
これも大統領の夢の中で起きた事が現実になったのですよね。

_ 矢菱虎犇 ― 2010-07-22 06時42分19秒

おはようございます。
僕は昨晩、爆睡してしまいました!
おかしな夢を見た記憶はありません。

このお話、何だか映画版『デッドゾーン』を彷彿とさせる面白さですね。夢が現実化する人間の夢を操作して未来を変えようだなんて!
最後の、悪夢自体が実体化してしまうオチも息をのむラストシーンですねぇ!これもまたいわゆる夢オチでしょうか?(笑)

マイヨマイネって不思議なネーミングですね。マイムマイムかマヨネーズか。なにかのアナグラムとかですか?
僕の頭の中では、
基本、半魚人で
アルビノで漂白したみたいに白くて
眼はルビー色で、
オコゼみたいな顔の
不気味な姿で実体化しました。

_ tatsuさんへ ― 2010-07-22 22時03分31秒

大統領だって夢は見ると思うんですよ。
ってことは、それが悪夢だったら、どんだけ怖い夢なんだろう?
なんて考えてたら思いつきました。
>これは実話
まさにまさに!
おそろしい世の中です。

_ 矢菱さんへ ― 2010-07-22 22時07分43秒

こんばんは!
いやあ、朝イチ、ありがとうございます。
勢いだけで書いてるので、読み直ししないんですよねえ。。。
ですから、こういう無様な結果になっちまうんです。
本当に、すみません。

>マイヨマイネって不思議なネーミング
青森の方言かんかで
「そんなことしたらまいよ~」
って言ってたんです。
まいよってのは、ダメだよみたいな意味みたいです。
まいねは、ダメねえってな感じです。
マイヨマイネを直訳するとダメダメってわけです(笑)

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