夢のお告げ(『きまぐれロボット』より)2010-12-25

メリー・クリスマス!クリスマス競作やりましょう!





ドム・コブは、睡眠状態の間に潜在意識から、企業情報やアイデアを盗み出すスペシャリスト。

そんな彼が、今回依頼されたのは、アイデアを盗むのとは逆に、相手の潜在意識にある情報を”植え付ける”ことだった。

『インセプション』と呼ばれるその任務は、およそ不可能と思われたが、コブは、失った人生を取り戻すため、依頼を引き受けることにしたのだった。

コブと仲間のアーサー、モルの3人は、依頼された情報を”植え付ける”相手への接触に成功し、催眠薬を飲ませた。

「あれ? 俺は何をしてたんだっけ?」
夢の中で目覚めたヨセフが、その場に座り込んで、目がしらを抑えながら言った。

「どうかしましたか? なんだか具合が悪そうだ」
コブが、ヨセフに近づいて、さりげなく訊ねた。
「・・・・・・ありがとう。いや、疲れが出ただけなんです」
ヨセフが、コブを見上げて言った。

「でも、とても悩んでいるようでしたけど」
コブが、ヨセフの隣に座って、ヨセフの肩に手をのせて優しく言った。
「・・・・・・妻が・・・・・・いや、あなたに話すようなことじゃないな」

「そんなことは、ありませんよ。話してください」
「・・・・・・妻が、妊娠してるんだ。だけど、それは俺の子じゃない。・・・・・・妻は、誰かと浮気して、身籠ったに違いないんだ。それを考えると、なかなか眠れなくて」

「・・・・・・眠れないなら、いい薬があります」
ヨセフは、コブから薬を受け取ると、なんの疑いもなく、それを一気に飲み干した。

そして、夢の第2階層へ、ヨセフは落ちていった・・・・・・。

ヨセフは、どこまでも広がる草原に立っていた。
空には、雲ひとつなく、涼しげな風が南の方からさらさらと草花を揺らした。
空が、突然明るくなって、光に満ちた天使が現れた。

「ヨセフよ」
変装の名人、アーサーが天使の翼を広げて言った。
ヨセフは、恐れおののいて、その場に跪いて、祈った。

「ヨセフよ、驚くことなない。私は、神様からのお告げをお前に伝えに来たのだ」
「はい」
「ヨセフよ、お前は妻に疑念を抱いておるな?」

「そのとおりです」
「マリアの腹の中の子は、聖霊によって宿ったものなのだ。マリアは、神様の子を産むのだ。その子に、イエスという名をつけなさい。ヨセフよ、これはとても名誉なことなのだよ。イエスは、生まれ、そしていずれ民の罪を背負って、死ぬが、それは永遠の命が与えられた証しなのだ」

ヨセフは、涙を流して、ひれ伏した。
「ありがとうございます!」
ヨセフの上に香湯が降り注がれた。

そしてヨセフは、そのまま夢の第3階層へと落ちていった・・・・・・。

稲妻が轟き、イエスは磔になっていた。
体中から血が噴き出し、今にも息絶えそうだった。
ヨセフは、マリアのそばで、その光景を見ていた。
彼にはどうすることもできなかった。

「ああ、わが子よ、なぜ? なぜ死ななければならないの?!」
マリアが、泣き崩れた。
ヨセフは、マリアを慰める言葉が浮かばなかった。
「・・・・・・マリア、あの子は、神の子なんだ。これで、あの子は、神様のもとへ行けるんだよ」

「水をちょうだい」
マリアが言った。
ヨセフは、近くにあった桶から水を汲むと、マリアに差しだした。
しかし、マリアは疲労困憊していて、その器を受け取る力がなかった。
ヨセフは、口移しに水を飲ませようと、その水を口に含んだ。

ヨセフは、とうとう夢の第4階層へと落ちた・・・・・・。

テーブルの上には、ろうそくの灯ったケーキと、シャンパン、七面鳥の丸焼きが乗っていて、部屋の中は、赤や緑のイルミネーションでキラキラと輝いていた。
マリアは、とても機嫌がよさそうで、三角の帽子を被っている。

「メリークリスマス!」
マリアが言った。
ヨセフは、シャンパングラスを持って、微笑んだ。
「メリークリスマス」

「それから、ハッピーバースデー」
「え? 誰の?」
「あなた、酔ったんじゃない? ほら、今日は、イエスの1歳の誕生日じゃない」
「イエス?」
「そう、キリストと同じ誕生日だから、イエスって名付けたのは、あなたよ。忘れたの?」
そう言って、マリアは悪戯っぽく笑って、ちらりと奥の部屋を見た。
ヨセフが、マリアの視線の先を追った。
そこには、ベビーベッドでスヤスヤと寝息をたてている赤ん坊がいた。

「インセプションは成功だ。これでヨセフはマリアが身籠った子供は、自分の子だと完全に信じ込んだ」
その一部始終をモニターで監視していたコブが言った。

「よし、コブ、そろそろ戻ろう。だいぶ深くまで来てしまった」
アーサーが、空を見上げた。

「いや、こんなに深くまで潜れることなんてめったにない。僕は、もう少しこの世界で、クリスマスを楽しんでみたいと思うんだ」

「何言ってるんだ。神やキリスト、クリスマスなんてシステム、お前が創りだした幻想にすぎないんだぞ! ありもしない世界にいつまでもいちゃダメだ! ・・・・・・さあ、帰ろう!」
アーサーが、コブの腕を掴んで、連れ出そうとしたが、コブの意思は堅かった。
コブは、長くのびた白い髭をひと撫ですると、組織の象徴でもある真っ赤なコスチュームを着たまま、雪の降り積もる街の中に消えていった。

その時、音楽が鳴り響いて、アーサーは激しい衝撃を受けた。
それは、夢から覚めるための合図だ。



メリー・クリスマス!!!
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コメント

_ 矢菱虎犇 ― 2010-12-25 18時08分06秒

ヴァッキーノさん、もうすっかりインセプション中毒状態じゃないっすか(笑)渡辺謙さんみたいに夢の世界の住人になっちゃうよ~!
それにしてもクリスマスって夢の世界のお話だったんですねぇ
だから仏教やら神道のぼくらでも祝っちゃうことができるんだ。
と、感心しちゃったりして~
インセプションを見たときのめまいのような感じがよみがえりました。

_ 矢菱さんへ ― 2010-12-25 18時38分34秒

自分の頭の中がインセプションになってるので
それをストレートに出しちゃうことで
そこからの脱却を模索したわけです。
ですから、なんの工夫もなくそのまんま
インセプションなわけです(笑)
で、クリスマス競作企画!
これからさくらんぼワイン飲んで酔っ払います。
メリークリスマス!

_ haru ― 2010-12-25 19時47分18秒

すごぉ~い!『インセプション』
夢か、うつつか、幻か・・・それとも洗脳?
睡眠薬を飲むときは気をつけよっと。。。
あー。でも現実よりもインセプションされた世界の方がいいかなぁ?
だってクリスマス競作企画に参加できたんだもの。
今日も、すこやかに睡眠薬飲んで寝ちゃおーっと。。。

_ haruさんへ ― 2010-12-25 19時53分28秒

インセプションって面白いというか、インスピレーションをふつふつを湧かせてくれる映画でした。
脚本がすごいんですね。
で、相当影響を受けてしまったので、それを払拭しようと思って、こんなお話しを書いてみました。
ボクも今、お酒という睡眠薬を飲んでます!
グビグビ。
飲み過ぎ注意!
メリークリスマス!

_ tatsu ― 2010-12-25 22時33分18秒

映画で見たインセプションの脚本を読んでいる気がしました。
次はオリジナルの脚本を書いていただくようお願いします。

_ tatsuさんへ ― 2010-12-25 22時39分28秒

もう今回はただ単にインセプションなわけなんです(笑)
それにクリスマスをリンクさせ、キリスト誕生やなんかもみんな夢でしたっていう夢オチ!
ま、クリスマスっすからってことでお願いします。

_ Madam Garden ― 2010-12-26 18時20分09秒

インセプション、私も見ましたよ。DVDで見たので途中で寝ちゃって夢の中で続きを見たりして…。

私には、あの準主役の女の子が気になって、いまいち映画に入り込めませんでした。こないだまで高校生妊婦だったこんなうら若い娘さんに、こんな重要な任務を任せるなんて…大丈夫なのか?!ってどうしても思っちゃって。

関係ないですが、うちの息子の学校にもいます。ジーザスくん。

_ Madam Gardenさんへ ― 2010-12-26 18時37分26秒

インセプションの見方はいろいろあるんでしょうね。
ホントに夢を見ながらだったり(笑)
ああ、あの女の子って16歳で妊娠した映画、ジェなんとか、ジュなんとかでしたっけ?
とにかく、その女の子だったんですか!
賛否両論ある映画ってスゴイ映画なんだと思うんです。
インセプションもそのひとつになってほしいなあ。
ブログ的には、クリスマスも終わっちゃって、なんだかポッカリ穴が空いたような気分です。
なんか吸収する時期なのかもしれません。
インセプションはそのカタパルト。

_ りんさん ― 2010-12-26 23時23分44秒

インセプション、面白かったですよね。
思い出しちゃいました。

これもスケールが大きくて面白いですね。
キリスト誕生までさかのぼりましたね^^

クリスマスも終わってしまいましたね。
競作楽しかったですね。

_ おりんさんへ ― 2010-12-27 09時28分17秒

クリスマス競作企画、ボクはあんなに大盛り上がりになるなんて
正直、思ってなかったんですよ。
こじんまりとした居酒屋って雰囲気なのかなあと。
しかし、そこはやっぱ矢菱さんの企画ですね!
集まった集まった。
まるで有名人の結婚披露パーティみたいな感じになったじゃないですかあ!
凄かったっすねえ。

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