【朝】

ヒデちゃんには、昔みたいに、ドラムをガンガン叩いてほしいなあ。
なのに、ぜんぜん練習もしないし・・・・・・。

｢ヒデちゃん、今日はバンドの練習行こう？｣
｢なんだよ、朝っぱらから・・・・・・｣
目が覚めたばかりなのに、こんなこと言っちゃって、私のバカ！

｢今日は、みんな集まる日じゃないの｣
｢だから、ウゼーんだよ！　いちいち、指図すんじゃねぇよ｣
だって、ヒデちゃん、ドラムセットに埃がかかるくらい練習してないんだもの。

｢夢、諦めちゃったの？｣
出会ったころ、私に熱く語ってくれたバンドマンになる夢。

｢夢とか言うなよ、目が覚めたばっかで、また夢見ろってか？　あーん？｣
｢・・・・・・だけど｣
ヒデちゃんには、夢を叶えて欲しいのよ。
野外音楽堂で、満員の観客を前に、ドラムを叩くって。
それなのに、それなのに・・・・・・。

｢なんだよ、また泣くのかよ。オメェがいるから、練習とかイヤになんだよ。いちいち言うから！　ああ！　もうヤメだヤメ！｣
そ、そんな！
私のせい？
私がいなくなったら、ドラムをやるの？

涙を拭いて、笑顔になったら、きっとヒデちゃんだって。
｢ヒデちゃん・・・・・・練習、行こうよ｣
｢だから、当てつけがましく、笑うんじゃねえよ！　バーロー！｣

｢みんな、ヒデちゃんが練習来るの待ってるんだから、ね？｣
｢うるせーよ。天才ってのは、練習しなくてもいいんだよ｣
そっか、ヒデちゃんはドラムの天才だもんね。

｢・・・・・・ドラム｣
このドラムセットだって、ヒデちゃんがあんなに欲しがるから、私、貯めておいたバイト代を崩して・・・・・・。

ダガダガダガ♪
ダダンダダーン♪
チャチャ♪
ツッタタ♪

｢ヒデちゃん！　スゴイわ。やっとやる気になってくれたのね？！　私、うれしい！｣
ヒデちゃん、ありがとう！

｢そういうのが、ウゼーっつってんだよ！　いちいち褒めるんじゃねえよ！　ったく。　オレ、ゲーセン行ってくるぞ｣
えー！
もっと聞きたかったのに～。

｢じゃあ、お願いよ。今日、練習行こうね｣
ヒデちゃん、なんか悩みがあるなら、言ってよ。
一人で抱え込まないでね。

｢だから、泣くんじゃねえよ！　辛気くせー｣
・・・・・・だって、勝手に涙が出てくるんだもん。



【昼】

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