【朝】

『家庭のない家族の時代』・・・・・・か。
ふむふむ、なかなか興味深い本だ。

家庭の中のヤマアラシジレンマ。
人と人とのお互いの距離が近くなればなるほど、ヤマアラシの棘で相手を傷つけるように、お互い傷つけあってしまうという人間関係のジレンマ・・・・・・か。

どうすれば、家族仲良く暮らせるんだろう？

笑顔で接することが大事・・・・・・か。
そうだな。
最近、理沙の様子がどうも変だ。
どうやら、ママに洗脳されて、本気でアイドルを目指そうとしているみたいだ。

ママの夢を娘に押し付けるっていうのは、ある程度は仕方ないとしても、なんだか、ここんとこ見てると、異常なくらいレッスンしてるよな。
オーディションとかにもしょっちゅう出かけてるみたいだし。

それに、洗濯ものもこんなに溜まってる。
しかも、どれもこれもヒラヒラの昔流行ったような、いかにもアイドルって感じの衣装ばっかりだ。

これ、洗濯機で洗っても大丈夫なんだろうか？
柔軟剤入れちゃおう。

ん～。
いい香りだあ。
ダウニーより、やっぱタイドだよな。

｢あら、起きてたの？｣
｢ああ、おはよう｣
しまった、笑顔笑顔。

ニヤ～。

｢なに？　気持ち悪い。理沙のレッスンあるんだから邪魔だけはしないでね｣
｢あ、ああ。理沙のダンスは、どのくらい上手になったんだ？｣

｢やだ！　パパ！　見ないでよ！　あっち行って！　信じらんない！｣
｢そ、そんなあ。アイドルってのは人前に出ても照れずに踊れなくちゃダメなんじゃないのか？｣
それに、なんだ？
その頬のチークは・・・・・・。
いまどき、そんなメイクするやついる？

｢パパは、業界の人とかじゃないんだから、あっち行って！｣
｢そうよ、理沙の邪魔しないでって言ったばかりじゃないの。明日はオーディションなんだから！｣

なんだよ。
なんでママまで、わけのわからないメイクして。
しかも、名古屋巻きだっけ？
いまどき、どこの美容室でやってくれるんだ、その髪型！

ママ、まさか学生の頃からの夢を捨ててないんじゃないだろうな。
あわよくば、理沙のオーディションを利用して自分もデビューとか・・・・・・。
いや、もう、アイドルになんてなれないよ。

ああ、笑顔笑顔。

ふう・・・・・・なんか、疲れるなあ。
暇つぶしに、散歩でもして、昼飯はいつものガチンコ食堂で、家庭の愚痴でも話ながら定食を食う・・・・・・か。


【昼】


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