小堺 悦子(46歳)2011-04-15


【朝】

いやな朝。
眠ったか、眠らないかのうちに、もう朝だわ。

旦那せいで、借金まみれ。
まったく、わけのわからない投資話になんて手出すから。
会社は倒産寸前。
どうすんの?

・・・・・・はあ。
地獄だわね。
だけど、どうにかしてこの借金地獄を誰にも気づかれないようにしないと。
なにか、疑われてもシラ切ってみせるわ。

とりあえずは、第1の難関が、今日のワイン教室だわね。
山田ババアにだけは、バレたくない!
ゼッタイ!

アイツ、人の不幸を栄養に生きてるような女だから、何があってもシラ切ってみせる。

普段と同じ。
普段と同じ。
こうやって、呪文をかけていれば、どうにか生きていける。

「おい、悦子、そのマッサージチェアは、差し押さえだから、座らない方がいいぞ」

「なによ! 電源入れてるわけじゃないんだから、別にいいじゃない! だいたい、アンタのせいで、こうなってんのよ! 朝っぱらから、くだらないこと言う暇あったら、会社行け!」
まったく、何のんきなこと言ってやがんだ。

せっかく通販で買った、健康グッズ。
ぶら下がり健康機。
ABスリマー。
リーボックのジムボール。
ブルブルダイエット。
フィットネスバイク。

あ~あ、どれもこれも差し押さえの赤札貼りやがって!
これじゃ、私の体型がどんどん悪くなっちゃうわ。

ミツル先生に、私の体型の変化を気づかれたら・・・・・・シラ切ってみせるわ。

生活リズムも変えないし、服装だって、ゼッタイ地味になんてしないわよ。

「なあ、悦子・・・・・・。ワイン教室、やめてもらえないか? ウチもこんな状態だし・・・・・・」

とぼけたことばっかり、言うんじゃないわよ!

「ほざいてないで、金作りなさいよ! アンタはどうなっても、私はずっと私のままなの! アンタのために、私も仕方なく犠牲になって、造花作る内職やってやってんのよ! さっさと、仕事しろ!」

まったく、こんな男とどうして結婚しちゃったのかしら。
特需の時にまんまと言いくるめられたわ。
って言うより、よく考えてみたら、ウチの旦那って、元は山田ババアの彼氏だったんじゃない。

ドラマ気取って、横恋慕したんだったわ。
そうよ、旦那も、あの時は、トレンディ―ドラマから抜け出してきたような、三上博史って感じだったもの。

私と山田バアアは、ダブル浅野だったわね。
それなのに・・・・・・。
こんなことなら、三上博史を取らないで、布施博か、大江千里にしておけばよかったわ。

ああ!
特需の頃に戻りたい!


【昼】


本日も、読んでいただきありがとうございます。
ヴァッキーノは、にほんブログ村の村民です。
1日1回、ポチッとクリックしていただけたら、大喜びです。
     ↓
にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
にほんブログ村

コメント

_ りんさん ― 2011-04-15 19時25分39秒

えええ~!ワイン教室行ながら造花の内職?
ちゃんと働け!(笑)
見栄を張って生活しても、いつかボロがでますよね。

山田さんは金持ちになってるから、人生わからないですね。
ダブル浅野もビックリしてるかも。

_ haru ― 2011-04-15 21時28分51秒

ぷふっ!ヤーダ!吹きだしちゃいました。おもしろすぎる。ヘ(゚∀゚ヘ)アヒャ 
でも、確かにオバサンは、生まれたときからオバサンではない。
クククッ(笑)でも、面影がなさすぎとちがいますか?
ご主人の小堺杜夫さん、ホントに三上博史って感じだったのかなあ。(疑いのまなざし)
登場が楽しみな人物 ◎要チェックです。

_ おりんさんへ ― 2011-04-15 21時31分42秒

なんらかの事情があって、この世界の人々は、特需を経験しているわけです。
いうなれば、バブルみたいなもんでしょうか。
そういう人間は、見えっ張りっぽいです。
なんか借金まみれの人ってのは、こうなんじゃないかなあという、ボクのイメージの反映です。

_ haruさんへ ― 2011-04-15 21時57分25秒

生まれながらのオバハンはいない。
オバハンになるのだ!(格言)
と、いうわけで、
バブルってのは、いまから20年ちょっと前ですよね。
この島の人々がいる世界では、特需と呼ばれる時代なんです。
いったいなんの特需なのかは、秘密ですけど。
三上博史に似てるかなあ?
似てねえだろうなあ(笑)

_ 海野久実 ― 2011-04-15 23時15分17秒

あ!
これってパラレルワールドだったんですか?
我々の世界とは似ているけどちょっと違う。
特需って、太平洋戦争後の?と思っちゃいましたけど、我々の世界のバルブみたいなものをこの世界では特需と呼んでいる???
ヴァッキーノさんは、100人の日常を創造するだけではなく、もう一つの世界を創造していたわけですね。
なんという壮大な試みであることか。

ところで、悦子さん。
なんか股間を抱いてしまいます。(ぷぷっ!タイピングミス)
なんか好感を抱いてしまいます。
この人、見栄っ張りではなく、負けず嫌いのガンバリ屋さんだと思うんですけどね。

_ 矢菱虎犇 ― 2011-04-16 00時49分13秒

オバハンの旦那との距離感がなんとも辛いですねぇ。現実を直視できているのかいないのか、それも含めてオバハンだなぁって気がして。
島の特需・・・そうなんだ。個性的な一人ひとりを関係づけながら人生を操るだけじゃなくて、そういう全体的な仕掛けがあるんですね。

あ、話したことありましたっけ?
ボクは15年くらい前、阿蘇山の温泉旅館で布施博さんとお風呂で二人きりになったことがあるんですよ。しかも布施博さんと知らなくてちょっと失礼なことを言ってしまいましたぁ。

_ 海野さんへ ― 2011-04-16 06時25分07秒

>パラレルワールド
そうなんですよ。
なんか、ただの日常を描いてるだけだと
いったいこの人は、なにがしたいんだ?
っていう軽蔑に似たものを感じてしまうので
描かれてないバックグラウンドでは
とてつもない何かが起こった、もしくは起こっているという気分で書いてます。

>悦子
自分の築き上げてきた社会的な地位や役割を
借金くらいで捨て去るわけにはいかない。
そういう思いで生きているんでしょうね。
海野さんが股間がもげる、いえ睾 丸が痛い、じゃなかた。痴 漢が抱ける、いやいやモヒカンのダンヒルという気持ち。
ずごくわかります!

_ 矢菱さんへ ― 2011-04-16 06時47分23秒

夫婦なんだから、こういう非常事態にはお互い協力しあえばいいのに、そんなことは一切なく、責任をお互いなすりあって生きてる。
醜いようで、それが現実ってこともありますよね。

>特需
このなんとも古めかしいワードがなんかカッコイイじゃないですか。
謎めいた世界観がちょっとずつ明らかになっていって、ラストで・・・・・。

>布施博
有名人と会うとテンションがあがりますね。
有名人の友達とか同級生がいたらスゴイでしょうね。
ボクの友達は(北海道出身)、ドリカムの人と知り合いだっていってますけど、ホントかなあ。

_ tatsu ― 2011-04-16 18時03分54秒

ショートショートの世界に現実的な話で白けるかもしれませんが。
こんな訳の解らない世間体やら見得やらで作り上げたバブリーな生活を
リセットする時期が来ているように思えます。

_ tatsuさんへ ― 2011-04-16 18時48分30秒

>現実世界
>リセット
まさに
このほとんど対峙するキーワードで
フィクションは成り立っているのかもしれませんね。
いろんな価値観があって答えも無数にあるように見えて
世界は、ひとつの答えに対する多数の問題でできているように思うんです。
小説 幸福操作官も
そんなのが表現できたらいいんですけど。(遠回しに)

トラックバック