加藤 順(25歳)2011-06-07


【朝】


響子~。
・・・・・・あれ?
隣にいない。
ぼくより先に起きちゃったのかな?
ぼくを置いて、一人で起きていくなんて。。。
朝から、テンション下がるよ。
ああ・・・・・・寂しいなあ。

だけど、いつまでも響子に甘えてるわけにもいかないんだ。
そうだ、ぼくは今日から自立する!

ちゃんと一人で起きれるんだ。
そして響子に朝のあいさつ。

「響子、お早う!」
「オーラ!コモエスタス!」

「響子、今朝はずいぶん機嫌がいいねえ。ぼくも一緒に機嫌よくなりたいなあ」
「順ちゃん、今日私がいなくても、一人で起きてこれたじゃない。だからうれしくって」
「そうかい? 響子、ぼくも今日から自立するんだ!」
「がんばろうね、順ちゃん。私も協力するから」

「ところで、響子、今夜は遅いの?」
「そう、今夜は帰れないかもしれないの。ゴメンね」
響子、今日は夜勤だったっけ?
じゃあ、夜はぼくひとりってこと?

「か、帰れない?!」
「患者さんで、今夜あたりお産になりそうな方がいるのよ」

そんなあ。
寂しい。
響子のいない夜。
ぼくはどうしたらいいんだ?

いや、そんな甘ったれたことを考えちゃダメだ。
「響子、ぼくは自立するんだ!」
「順ちゃんどうしたの? それ、さっきも聞いたわよ」
「今日は、夜になっても電話しないよ、ぼく」

毎日ぼくの方が帰りが早いから、寂しくて寂しくて、響子に電話してしまって、響子、迷惑だろうから。
自立の象徴として、ぼくは電話しないんだ!

「そうね、電話してこられても、きっと出られないと思うし」
「そんなあ・・・・・・」
「寂しくなったら、サボテンたちに話しかけてみたら? きっとテレパシーで順ちゃんの寂しさを紛らわせてくれると思うわ」

「テレパシーなんて、いらないよ。響子、早く帰ってきておくれよ」
「わかったわかった。だけど、今日は遅いの、だから、待っててね?」

ううう。
夜、一人ポツンと部屋にいる自分を想像しただけで、寂しい。
いっそ、透明人間になって、響子の働く病院に一緒について行きたいくらいだ。

「じゃあ、お仕事行く前に、私の膝枕で、順ちゃんの耳かきしてあげるから、おいで」
「やったあ! 響子の膝枕だ!」

ああ、ぼくは自立できるんだろうか。
とにかく、この寂しさを忘れるためには、人間のいる場所で時間を潰さなくちゃ。

会社に行けば、とりあえず人はたくさんいる。
そこで、できるだけ時間を潰そう。

ああ、響子。
この膝枕の感触を胸に刻み込んで、今日一日ぼくはがんばるよ!
だから、響子もがんばれ!

・・・・・・だけど
「響子、できるだけ早く帰ってきてよ」


【昼】


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コメント

_ 矢菱虎犇 ― 2011-06-08 00時00分59秒

俺、自立しちゃうかんね!絶対!
なんて宣言するってのは結局、自立できていないから言っちゃうんですよね。
自立した人は、そう言わないわけで。
そう考えると、本屋さんのビジネス啓蒙書とかの煽り文句なんて、できない人の心を抉って、だから読め!なんて感じですよね。

人の気持ちがわかるサボテン!犬や猫は喋らないけど、喋れるんですよ、サボテン。

_ りんさん ― 2011-06-08 13時43分25秒

甘えんぼの夫に、しっかり者の妻。
これだけ甘えられると、妻というより母親になっちゃいますね。
自立したらしたで、寂しかったりしてね^^

_ 矢菱さんへ ― 2011-06-08 21時07分50秒

ハウツー本なんかを買う人にかぎって、
夢なんか実現しないし、
書いてあること以上には、どうにもなりゃしない
っていうのって具体的にどういうことなんだろうと思ってましたけど
矢菱さんのコメント読んで、なんとなく理解できました。

>サボテン
この夫婦にとっては、わが子のような存在なんでしょうね。

_ おりんさんへ ― 2011-06-08 21時16分41秒

仲のいい夫婦の、それぞれの形なんでしょうね。
ボクも妻には、たぶん甘えっぱなしですよ。
男って、どっかそういうとこあるんじゃないですかね?
もし、ないなら、きっと奥さんじゃない誰かに甘えてんだろうなあ。
スナックなんかで、中年のおっさんが、恥ずかしげもなく甘えてますもん。
あれは、奥さんには見せられない光景でしょうなあ。(笑)

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