【朝】


有香、遅いのう。
もう少しで、絵が完成するというのに、ばあさん、ちゃんと有香にアトリエに来るように伝えてくれたんじゃろかいな。

まったく、言ったことをすぐ忘れよるからな。
ばあさん、ボケてきたんじゃろかいな？
ははは。

「じいちゃん、おはよう」
「おお、有香！　おはようさん。来てくれたんじゃな」
有香は、かわいいのう。
こんなにかわいい子をこれ以上悲しませるわけにゃいかんな。

わしらで、有香のことはちゃーんと育てるから、心配せんと、よう成仏するんじゃぞ。
「じいさん、有香に手を合わせてどうするの？　パパとママのブツダンはあっちの部屋だよ」

ああ、し、しまったあ。
有香に両親のことを思い出させちまったわい！
重千代、一生の不覚！
う、ううう。

「どうしたの？　じいちゃん、泣いてるの？」
「おお、有香、そうじゃないんじゃよ。と年を取るとな、変な液体が穴という穴から出てくるんじゃ。穴を締める栓が緩むんじゃな。　はははは！」

「じいちゃん、へーん！」
「じいちゃんは、変じゃのお！　はははは！」
ふう、有香に笑顔が戻った戻った。

「じいちゃん、もう絵、できた？」
「おうおう、もうじき完成なんじゃがな。どうも有香の表情の細かい部分がうまく表現できなくての」
「ヒョーゲンって何？」

・・・・・・。

有香の笑顔。
有香の笑顔。

有香が、笑顔で広い広い草原を走っておる。
風が吹いてきて、大きな雲が、山の方から流れてきた。
おや？
水車小屋から誰か出てきよったぞ？

誰じゃろう？
有香を呼んどる。

ああ、あれはわしの息子と嫁じゃないか。
有香、ほれ、お前のお父さんとお母さんが、呼んどるぞ！
有香！
行ってごらん。

なんで、気づかんのじゃ？
おお、お花摘みがあんまり楽しくて、気づかんのじゃな。
まあ、よいよい。

｢もう、おじいちゃん！　寝てるんだったら有香、あっち行くよ｣
｢・・・・・・んふぁ？　おお、すまんすまん｣

夢じゃったか。
またしても、眠ってしもうたわい。
年を取ると、すぐに眠くなっていかんのう。

｢有香、学校遅れちゃうとダメだから、もう行くね｣
｢・・・・・・んふぁふぁ？　そうじゃな。モデル、ありがとうな｣

有香は、素直でかわいいのう。 なんで、こんなにかわいい有香に、神様はひどい仕打ちをするんじゃろ？
いや、神様が悪いわけじゃないのう。
人間がみんな悪いんじゃ。

本土奪還のためのクーデターだかなんだかわからんが、そんなもんに家族を巻き込みおって！
ゲルニカ戦の時もそうじゃ、いつも悲しい目に会うのは、わしらみたいな善人ばかりなんじゃ！
ううう。
有香・・・・・・不憫な子じゃよ。

・・・・・・極楽浄土から、有香のことをいつまでも見守ってやってくれよ。
わしらも、もうすぐそっちに行くからの。
頼んだぞ。 拝むぞ。
　

【昼】


本日も、読んでいただきありがとうございます。
ヴァッキーノは、にほんブログ村の村民です。
１日１回、ポチッとクリックしていただけたら、大喜びです。
　　　　　↓

にほんブログ村