馬場 菊江(44歳)2011-06-19


【朝】


昨日も和田センセ、羽振りよかったわねえ。
ああいう客なら、毎日でも来てもらいたいわ。
人気作家ってのは、違うのね。

ヘソクリも溜まってきたし。
そろそろ、旅行にでも行きたいわね。
月旅行が流行ってるみたいだけど、ウチのグウタラ父ちゃんは行かないだろうしね。

富士山の麓にある温泉でもいいわね。
大噴火後、一度も言ってないんだもん。
温泉浸かりながら、キュッと一杯。

たまりまへんなあ。

ああ、なんかまた飲みたくなってきちゃった。
たしか、一升瓶が化粧台の裏に・・・・・・。
あったあった。
2級酒だけどね、これがいいのよ。
特級なんて、水みたいで、酒飲んだって気がしないもの。

グビグビ。
ぷはぁ~!
迎え酒サイコー!

「母ちゃ~ん!」
おや?
ジローが呼んでるわ。

「どうした? ジロー」
「あ、母ちゃん、ここにいたの? 父ちゃんが探してたよ」
「父ちゃんが? なにかしら」

「ねえ、母ちゃん、お酒ってそんなにおいしいの?」
「おいしいかどうか、ジローも飲んでみるかい? ほれ」
「うー、くさーい!」

あははは!
ジローはいい子だねえ。

どれ、グウタラのとこに行ってやるか。
その前に、もう一杯。
グビグビ。
ぷはぁ~!

「どうした、グウタラ!」
「うるせーな。おめえだって、朝から酒かっくらって、ダラダラやってるじゃねえか」
「酒を飲むのが、アタシの仕事なの! それより、何よ」
「実はな菊江、おめえに頼みがあるんだよ」

「だからなによ。聞くだけ聞いてやるから、早く言いなさいよ」
「クソしてえんだけどよ。ここから動くの面倒くせえから、菊江、おめえ代わりに便所行って、クソしてきてくれや」

バカじゃねえの?
どこまでグウタラなんだよ、この人は。
「アホ!」
グビグビ。
ぷはぁ~!

「俺にも飲ませろ!」
「一日中ごろごろしてる、腑抜けに飲ませる酒なんてないの!」
「っけ!」

こんなの相手にしてる時間がもったいないわ。
グビグビ。
ぷはぁ~!

イチロー、朝ごはん作ってくれないかしら。
もう、作るの面倒くさくなっちゃった。
少しおだてりゃ、イチローもその気になって、作ってくれるはず。
あの子、真面目だから。
「イチロー、あんた最近、料理の腕上げたんじゃないの?」
「本当?」
ほら、その気になってきた。

「ところで母ちゃん、どこ行ってたんだよ」
「どこ? 隣の部屋にいたじゃないの。」
グビグビ。
ぷはぁ~!

「今日の朝ごはん、イチローの手料理食べたいなあ、母さん」
「なんだよ、そういうことか。母さん、冷蔵庫空っぽだよ」
え?
そうなの?
食べるものないの?

じゃあ、いいや。
別に食べなくたって、酒飲んでれば満腹だし。
グビグビ。
ぷはぁ~!

お?
お腹の調子がよくなってきたわ。
トイレに行ってこようかしら。
その間に、グウタラに酒飲まれたら困るから、一升瓶持って行こう。

「ん? なんだよ菊江、おめえ優しいじゃねえか」
「え? なんでよ」
「なんでって、おめえ、俺の代わりにクソしてきてくれんだろ?」


【昼】


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コメント

_ 矢菱虎犇 ― 2011-06-19 18時47分56秒

かわりにクソしてきてくれ!なんて、究極のグウタラですねぇ。
でもふざけて家族に言ったことがある・・・
あ、ボクは今日、グウタラして結局、パジャマのまんまで休日一日を過ごしました。
もしかしてグウタラ度はボクの勝ち?

_ 矢菱さんへ ― 2011-06-19 19時56分28秒

>パジャマのまんまで休日一日を過ごしました
あー!
もしかして、今日も一日中、
動画を作ってたんじゃないですよね?(笑)

グウタラって語彙を最初に考えた人ってスゴイですよね。
きっと、目の前でトドみたいになってる人間をみて
思わず叫んだんでしょうなあ。

_ haru ― 2011-06-19 19時59分16秒

おお、馬場家も一家勢揃いですね。
えっと…今だ一人も明らかになっていないのが、竹之内家と戸塚家でしょうか?
それにしてもなんたる両親(怒!)一郎君は水道水でお腹を満たし弟の二郎君にたった1枚のパンを食べさせ。(涙)
わずか4才で靴磨きのアルバイト……ん!親って出来が悪いほど子どもは真っ直ぐけなげに育つのかあ?!
我が家は娘も息子もとってもよい子に育ったなあって思ってたけど、それって、私と夫がこんなだったってこと。。。???

_ haruさんへ ― 2011-06-19 20時59分22秒

ここの親はヒドイ!
なんつうグウタラなんでしょう。
こういう人間は幸福にしたくないもんですけど
この両親が幸福になれば、きっと一郎も次郎も幸福になるはず。
そのへんのバランスが難しいですねえ。
haruさんは、家族で朗読とかして、協力的だから
ちゃんと幸福操作されてるんでしょうね。(笑)

_ りんさん ― 2011-06-20 19時45分02秒

お父さんもひどいけど、お母さんもひどいなあ。
朝から一升瓶かあ。
一郎くん次郎くん、かわいそう。。。
親がダメだと、子供って出来がいいのでしょうか。
ふたりともいい子ですよね。

「代わりにトイレ行ってきて」って、寒い日とか言いましたよね。
どんだけ面倒臭がりなんでしょうね。

_ おりんさんへ ― 2011-06-20 21時12分20秒

こんなグウタラな夫婦に、なんで幸せが必要なんでしょう?
一郎と次郎にとって、この両親の存在は、なんの意味があるんでしょう?
まったく、ひどい!
自分で書いていてもそう、思うんですよ。
だけど、そこは幸福操作官。
がんばります。

>「代わりにトイレ行ってきて」って、寒い日とか言いました
なるほど、そうだったのかあ。
この舞台は、真夏ですから、逆に動くと暑すぎて、そう言ったんでしょうね!
そっかそっか。

_ 海野久実 ― 2011-06-21 21時20分29秒

おおー富士山の大噴火。
これもキーワードですね。
前に一度出てきたかな?

菊江と言う名前を聞くと上方落語を思い出します。
落語には珍しい悲劇のヒロイン「菊江仏壇」の菊江さんです。
純情可憐な南の芸鼓さんで、若旦那に見捨てられたと思って患い、亡くなってしまいます。

_ ふたたび海野さんへ ― 2011-06-21 22時04分50秒

>富士山の大噴火
いったい、この庶民の周囲では今も昔も何があるんでしょうね。
人類がいまだ経験していないなにかだと思いますけど、
それは、またあとのお話しです。

海野さんも矢菱さんも、落語に詳しいですよね。
ボクは、全然なので、お二人の作品やコメントで勉強しているしだいです。
やっぱ、落語っすよね。
ショートショート書くうえで、欠かせない知識だって思います。

_ 海野久実 ― 2011-06-22 10時33分39秒

あらら、情報が間違っていました。
「菊江仏壇」ではなくて、「立ち切れ線香」でした。
どちらも極道の若旦那と芸鼓さんが出てくるのでごっちゃになっていました。
久しぶりに聞いてみようと思ってアイポッドで「菊江仏壇」を聞きながら散歩。
いつまでたっても記憶にあるお話の展開にならないので、間違いに気がつきました。

落語、好きですねー
今は桂米朝さんしか聞きませんが、昔は上方落語と言わず東京落語と言わずカセットテープに録りためて毎日のように聞いていました。

_ 海野さんへ ― 2011-06-22 21時14分44秒

落語が好きな人は、ゼッタイにショートショートに向いてると思うんです。
歌舞伎が好きな人は、恋愛。
ボクもそういうの勉強しなきゃなあ。
だけど、勉強がイヤだから、大人になったのに、
一生勉強ってのもなあ。。。

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