曽我 節子(38歳)2011-06-30


【朝】


朝ごはんの用意ができてるっていうのに、正樹も千尋も自分の部屋に閉じこもりっきりで出てこない。

千尋は、空手。
正樹は、ギター。

どうして、ウチはこうなの?

千尋は、まだいいわ。
オス! とかしか言わないから。

問題は、正樹よね。
朝からギターをかき鳴らされると、ホント迷惑なのよ。
私より、ギターのほうが好きなのね。

私、本気で離婚考えようかしら。
隆志も大きくなったことだし。
・・・・・・千尋にはかわいそうだけど、もう限界。

「なんだよ、お母さん。さっきから~。いくら家族だからって、カツラを調整してるとこ見ないでくれよ!」

え?
「ああ、ゴメンゴメン。そんなつもりじゃないのよ。ちょっとボーっとしてただけ」
「こんな姿、誰にも見られたくないんだよ」
「ゴメンってば」

隆志もかわいそうね。
まだ若者だっていうのに、ハゲだもの。
思い切って、ツルッツルだったら、諦めもつくんでしょうけど、
また、中途半端にハゲてるんだものね。

これも、正樹の遺伝だから、仕方ないわ。
そういえば、彼女にカツラのことカミングアウトしたのかしら?

隆志は、いい子だし、カツラくらいで別れるんだったら、その彼女もたいしたことないってことよね。
本当に愛してたら、カツラだろうが、ハゲだろうが、関係ないはずだもの。

隆志、がんばれ!

「お母さん! だから、いつまでもそこに突っ立てないでよ~!」
「はいはい」

ああ、まだギター弾いてる。
正樹、もういい加減にして。

これ以上、ギターばかりだったら、私別れるわ。
今なら、私の人生だって、まだやり直せるかもしれない。
離婚したって、増田病院の看護師として働かせてもらっていれば、
一人で食べていく分くらいは稼げるわけだし。
正樹は、私に対して、愛なんてもうないのよ。

・・・・・・そうね。
今夜、正樹に話そう。

「うわ! 千尋! 危ないじゃない! もう少しでお母さんに飛び蹴り喰らわされるとこだったわ」

「ごめーん」


【昼】


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コメント

_ haru ― 2011-06-30 20時22分31秒

ん!曽我家全員揃ったって思って、読み始めたら。。。あらら、お母さんそんなことを考えていたんだ。
う~ん、千尋ちゃん、まだ9才かぁ~。出来れば思いとどまって欲しいのですが……。

あれっ!人のこと言えた義理ではありませんでした。私もおかしなショート朗読をUPしてた。(*´ェ`*)ヤレヤレ!
これってもしかして、競作!なわけないか。(*v.v)。

_ haruさんへ ― 2011-06-30 20時32分17秒

曽我家が出揃いましたねえ。
家族って一緒に住んでいても、考えてることが
まったく違うんだと思います。
haruさんもそうでしょ?

_ 矢菱虎犇 ― 2011-06-30 22時01分38秒

愛なんてもうないのよと思う節子さん。
結婚記念日の自作の歌を練っている正樹さん。
同じ家で暮らしているけれど、互いの思いはわからないまま。
展望台の上から眺めているみたいに読んでいる読者。
演劇みたいで面白いですねぇ。

_ 矢菱さんへ ― 2011-07-01 03時14分15秒

こんな感じで、たとえば100人全員が出揃ったとしても
きっと、なんのもりあがりもないんじゃなかろうかって
心配です。
あんまりドラマ性がないので、人々の周辺、島の外の出来事だけでも
すさまじいことになってるっていう設定でやっていこうかなと。。。

_ りんさん ― 2011-07-02 21時32分13秒

若いお母さんですよね。
38歳の息子が禿げてたら、そりゃあ悲しいですよ。

でも離婚しようかなって言いながら、私よりギターが好きなのね、なんて、女心ですね^^

_ おりんさんへ ― 2011-07-03 07時22分12秒

夫婦だから、いいことばかりはありゃしないんですけど
だからって、すぐに離婚ってのもよくないですね。
結婚するときは、永遠の愛を神様に誓っておいて、
別れるときは、じゃあね!みたいな。
これじゃあ、神様だって黙ってないでしょう。

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