【朝】


たった一人のかわいい妹のためだ。
兄ちゃんは、いくらでも徹夜してやる！
って、裕子が寝ちゃっててどうすんだよ～。

もう、今日が締め切りだっていうのに、まだ箱書きしかできてないじゃなか～。

いくら、妹が天才だからって、今日中に１６ページは無理じゃないかなあ。
「おい！　裕子、起きろよ。まだ原稿全然できてないじゃん！」

「あ、兄ちゃん、おはよう。・・・・・・おはようでいいんだよね？」
「いいんだけど、原稿ができてないよ、裕子」

まったく、ノンキなんだから。
こんなことじゃ、編集さんにまた絶望的な顔されちゃうよ。
締め切り、２日延ばしてもらって、今日、原稿できてなかったら、
編集さんが、印刷所に直接持っていかなくちゃならなくなっちゃうんだってよ。

「兄ちゃん、慌てなくて大丈夫だって。ユウがその気になれば、１０ページや２０ページなんて、すぐできちゃうから・・・・・・見てて」

うわわわー！
裕子！
す、すごいスピードでＧペンを動かしてる！
下書きなんかなくても、どんどんペンが進んでる！

妹よ、やっぱお前は天才漫画家だ！
すごいぞ！

１ページ・・・・・・２ページ・・・・・・３ページ・・・・・・。
この調子でいったら、本当にできてしまうかもしれない。

「うう・・・・・・兄ちゃん、ユウもうダメ～」
ほわんほわんほわわわわ～ん。

「えー！　４ページまで描いたじゃないか！　がんばれ！」
「ダメ～。兄ちゃん、背景とベタお願い」

背景と、ベタ？
わ、わかった。
裕子に恥をかかせるわけにはいかないからな。
兄ちゃんに任せろ！

「で、裕子、背景の資料ってどこ？」
「その棚のどっかに、『ビル』とか『町並み』っていうカテゴリーのファイルあるから、そこからテキトーに合うやつ選んで、描いてちょうだい」

テキトーに？
この棚の中から？
ここから、その『ビル』とか『町並み』ってファイル探すのだけで
かなり時間がかかりそうなんだけど・・・・・・。

まずは、棚を整理しよう。
背表紙が反対を向いてるヤツをちゃんと見えるように並べて。
あいうえお順にしたら、どうだろう。

あ、あった！
『ビル』
これだな。

よし、下書きだけしたら、バイトに行って、帰ってきてからまた手伝ってやろう。

背景ってのは、描くのが面倒くさいんだよな。
目立たない存在だけど、丁寧に、細かくそのディテールを描いていかないと、漫画全体がチープなものになってしまう。

ここは、雲形定規で・・・・・・。
この曲線に、あとでスクリーントーンを入れれば・・・・・・。

よし、まずはここまでかな？

「裕子、兄ちゃんはこれからバイト行ってくるから、できるだけ書き上げておくんだよ。夕方ごろ、編集さんが来たらできてるように・・・・・・いいかい？」

「ふゎ～い」

・・・・・・だめだ。
こりゃ、締め切りまで、今回も間に合わないな。


【昼】


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