【朝】

今日は、これにしようかな？

サラサラしてて、爽やかさが強調できるんだよね。
・・・・・・だけど、こっちでもいいか。
毛先が後ろに流れる感じ。

かぽっ。

うん。
やっぱ、麗子とのデートの日だし、サラサラバージョンでいこう。
ロングヘアのメンズカツラって、けっこうするんだよな。
でも、このサラサラがいいんだ。

麗子、オレのどこが好きなんだろう？
サッカーをしてる真剣な顔が好きだって、言ってたけど、本当のオレの顔を見たらどう思うんだろう？

麗子、まさかオレがカツラ野郎だなんて、想像もしてないだろうからなあ。
付き合い始めて時に、思い切ってカツラを外してしまえばよかったんだ。
これじゃ、アルシンドになっちゃうヨ～だ。

だけど、オレのことを本気で好きなら、別にカツラ野郎だったとしても関係ないわけだし。
今日のデートで、オレの本当の姿をみせよう。

展望台の上で、このカツラを外してやるんだ。
それで、恋が終わったら、終わったでいいじゃん。
結局、その程度だったってことだし。

ぱかっ。

かぽっ。

ぱかっ。

なんで、オレはこんなに若くしてハゲなきゃならないんだ！

「おはよう、隆志。どうした？　朝っぱらから、鏡の前でうかない顔して」
あ、お父さんにカツラをつけたり外したりしてるとこ見られたかな。
だったら、自分の悩みを隠しててもしょうがないや。

「おはよう・・・・・・。実は、お父さん、オレ、彼女にこのカツラのことまだ言ってないんだよ」
「カツラ・ロンリー・シークレットってわけか。よし、お父さんが、お前のために一曲歌おう」

うへ、またお父さん唄いはじめた！

「♪隆志　おまえの悩み　俺にはわかるぜ
　　隆志　だけどくじけちゃ　だめなんだぜ

　カツラのことが言えなくても
　かならず　こんや　外してやるさ

　俺にも　同じ　悩みがあったのさ
　お前の　気持ち　わかるんだ

　カツラ・ロンリー・シークレット
　カツラ・ロンリー・シークレット
　スイート・ハート」

なんだよ、お父さん、朝から唄ってばっかじゃねえか。

「押忍！　お兄ちゃん！」
千尋は、朝から気合入ってんなあ。
「お～す」
「お兄ちゃん、なんだか元気ないね？　あ、お兄ちゃん、鉛筆一本ちょうだい！」
また、気合入れすぎて、折っちゃったのか・・・・・・。

「ほら、鉛筆。ちひ、お兄ちゃんのこと、どう思う？」
「・・・・・・どうって？」

カツラをつけてないお兄ちゃんのこと・・・・・・。
「・・・・・・いや、なんでもない」
「へーんなの。鉛筆ありがとう！」

「オレ、カツラなんだよ」
・・・・・・うう、たったこの一言なのに、麗子に言えるかなあ。

かぽっ。


【昼】

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